「今日の分になります。」
あれからひと月が経とうとしていた頃、マンションに帰ってきた滋はコンシェルジュから封書を手渡される。
A4サイズの封書で親展と書いてあった。
差出人は大河原興産第一秘書佐々岡篤
「ありがとう。」
コンシェルジュにお礼を言い滋は急いで自分の部屋へと戻った。
バタン
バタバタバタ
部屋に入りカウチにバックを投げ捨てる。
ペーパーナイフを取り出し、封書を開封していく。
手元がおぼつかない。ナイフじゃなくてハサミを使おうかとも思ったが、取りに行く手間を考えそのままナイフを使うことにした。
手を切らないようにと考えながら。
不揃いの開け口から書類を取り出す。
滋はその報告書を一心不乱に読み更けていた。
「2年前そんなことがあったんだ。」
立て続けに発表した大きなプロジェクト。大河原の報告書にはそれを機に道明寺内の派閥の改変があったと記されている。
そしてそれから目立ち始める司の存在。
報告書には道明寺内の権力の大半を司が手中にしているとも書かれていた。
「力をつけているってことよね。だからつくしに会いに行ったんだ。」
そして報告書には妻の梢の事もあった。
梢の生い立ちを見て行く中で離婚の文字が目に飛び込む。
「え?この人司の前にも結婚していたの?」
なんでこんな人を司は選んだのか分からない。もしや司ではなくて司の母がまた画策した結婚だったのか?
いやそれも考え難い。梢の実家の会社はごくありふれた優良企業だ。どこが楓の目を引いたのだろう?
楓自身も変わったのだろうか?
つくしと別れてからの2年間に何かがあったとか?
滋は梢の身上書を細かく見ていきながら、司の考えを探した。
大学在学中に妊娠、結婚するも流産してしまいそのまま離婚。
実家に戻って数年後に縁談が持ち上がるがこれを蹴って、事業を始める。
その事業は軌道に乗りかけるが失敗し廃業している。
「父親が事業の整理をしている、、これじゃあ頭が上がらないな。」
規模は違えど同じ令嬢の身、梢の経歴は他人事に思えなかった。知らぬ間に自分に当てはめて読んでいて気づく。
「このタイミングで結婚?向こうから、、な訳は低いよね。じゃ道明寺側から?だったとしても喜べないよね、、、」
ハッ!
「そういう事?」
司の意図に気づいた滋。
ー離婚することを踏まえて結婚しているんだと思います。
桜子の言葉が蘇る。
つくしに会いに来た司の行動を推理した桜子。
「自分との結婚を望まない相手を選んで、離婚できるようにしたって事?なんで?」
なぜ?なぜ?と滋は考える。
確かに離婚するのはすごく大変だ。揉めることも多いだろう。
普通なら司と結婚できて嬉しいはずだ。
そりゃ司がつくし以外に優しくするはずはないから、すぐに不満を感じるだろう。
でも司の妻というステイタスをそう簡単に手放そうとはしないとか?
司の態度次第ではステイタスより他の愛を取りそうな気もするけど、、
いや相手によっては立場でステイタスでなく、捨てられたというプライドから別れようとしないかも、、
つくしの存在を知れば尚更だ。
「そうだとするとそんな立場の令嬢と結婚なんて出来ないわね。彼女を選ぶはずだわ。」
楓が選びそうな令嬢では、こじれることは容易に想像できる。
「でも何で結婚したの?しなくてもいいじゃん。」
そこが滋には分からなかった。
***
パサッ
滋に書類を返し、桜子はお茶を飲んだ。
考えをまとめているのだろうか、その動きはいつもよりゆっくりだった。
「どう思う桜子?」
「分かりません。」
小さく顔を振る桜子。
「調べた方ではあるでしょうが、いくら大河原でも道明寺の内部までは無理でしょう。書かれている内容は外から見えるものに限られてますし、これで道明寺さんの考えを読めと言われてもたどり着く訳ありませんよ。」
そうなのか?結構調べてあると滋は思っていたので意外な反応をする。
「滋さん。道明寺ホールディングスをそこら辺の企業と一緒にしてませんか?」
「してないよ。うちより大きいし、、」
尻込みする滋に桜子は分かってないなと理解するも、言い争いをしに来た訳じゃない。
ましてや道明寺ホールディングスの企業規模についての討論でもない。
「それでも道明寺さんの選んだ相手については意外でした。」
選んだ相手。
妻と表現しない桜子に滋は反応する。
「そうだね。この人、きっと司と結婚できても嬉しくないと思うんだ。」
「そう思います?」
「え?う、うん。え、桜子は思わない?」
「だって道明寺さんとの結婚ですよ。彼の事を良く知らないうちは、夢や希望を持つでしょう。」
「そうかなー?だって、この人結構失敗してるよー離婚に、縁談拒否、事業失敗、、親への負い目があって、しかも(司より)年上じゃない。私だったら嫌。」
桜子は滋の反応に意外というような反応をする。
「何よ。」
「いえ、令嬢ならではの考えなのかなと。」
「あんただってそうじゃない。」
「私は両親が他界してますし、そもそもこんな失敗しません。それに企業の令嬢じゃなくあくまで、旧華族ですから。滋さんとは立場が異なりますよ。」
そりゃそうだけどと滋は違いを考えてる。
「それだけじゃないですけどね。」
「え?」
「私達の周りには例え失敗しても失敗と思わないタイプの人間もいます。滋さんがそうお考えなのは、滋さんの性格もあるけど先輩の影響が大きくありません?」
つくしの影響。
滋はハッとなってしまった。
そうだ。英林でもそんな考えをもつ子ばかりだった。
損得でモノを考えて、私には大河原の娘というだけで近づいてきた。
「じゃあ、この人もそうかもしれないね。それだったら桜子の推理も違ってくる。」
結局何も分からずじまいかと滋はガッカリしてきた。
「いえ、違うと思います。」
「桜子、、」
「滋さんが先輩に影響されたように、道明寺さんも先輩には影響されてます。それも最大級に!」
桜子は身を乗り出して力説する。
「だからそんな人を選んだんですよ。失敗をちゃんと認識して、負い目を感じている人を。道明寺さんとの結婚をきちんと政略結婚だと認識しているはずです。なぜ彼女なのかの理由までは分かりませんが、離婚したい時期に離婚できる様コントロールをしているんじゃないでしょうか?」
2人は目を合わせる。
滋は固まりが解け、桜子は謎が解けたようで興奮している。
「じゃあ、司は離婚しようとしているってこと?」
桜子は頷く。
「間違いないです。」
「つくしには、、」
「私から言いますよ。」
途端に力を抜く桜子。滋のつくしに教えたい気持ちも理解できる。
「そうだ、ね。・・・まだ受け入れられないかな。」
力弱く滋が呟く。
女子会では桜子の推理に感情的に否定していた。
「会ってみて、判断します。」
「桜子もアレ以来?」
「そうですね。私もそれなりに忙しいですから。」
「そっか。じゃ、今日も悪かったわね。」
「良いんですよ。連絡待ってましたから。」
桜子は極上の笑みで返す。
そんな桜子を滋は本当に美人だなと思っていた。
「いつ、打ち明けるんですか?」
「いつって?」
「嘘ですよ。滋さんの嘘。」
滋が海外にいてなかなか帰れないと言う嘘だ。
「本当はこの前言うつもりだったの。」
「そうですか。」
桜子は分かってくれている。滋はそう思えた。
「自分で言うよ。自分で。」
桜子はうんうんと頷いている。
「いつ、、か。・・・そうだね。つくしが司とよりを戻したら言うよ。」
桜子は少し意外そうだ。
「今まで私、自分の考えばかり押し付けていた。だからつくしに避けられちゃったのね。あの2人は私なんかが心配しないでも、きっと元どおりになる。そうしたら私の嘘も言わなきゃ、つくしが怒るかなって、、」
へへと滋が笑う。
「滋さんも変わりましたね。」
桜子が言う。
「そう?」
「ええ。先輩に避けられた理由を受け入れている。それって難しいですよ。なかなか出来ないと思ってました。」
「そうだね。苦しかった。」
「私が滋さんの立場でも苦しむと思います。先輩には好かれたいですから。」
「うん。」
「私達って似てますよね。というか同じ?」
「同じ?」
「牧野つくしが大好きすぎるってとこです。」
「そうだね。つくしが大好き。」
「これって自慢できますよね。」
「できる、できる。つくしを知らない人って損してるって思うもの。」
「でも、道明寺さんとまたやり直したらそうはいかないでしょうね。」
「いかないね。司のことだから、閉じ込めるんじゃないかな?すぐ結婚だーってさ。」
分かりますと桜子と2人笑い合った。
つくしと司が再会して4日目に入籍する1年半前。
親友大好きな女2人は、遅くまで親友のことで語り合った。
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大河原で調べた司の調書。何からなんでも調べられるって変だよなも思いました。道明寺は大きい会社だし、セキュリティもしっかりしてるだろうし、、本編と合わせられてホッとしてます。
滋と桜子の謎解きからのつくし談話。司がいたら黙れってなりそうだよね。
あれからひと月が経とうとしていた頃、マンションに帰ってきた滋はコンシェルジュから封書を手渡される。
A4サイズの封書で親展と書いてあった。
差出人は大河原興産第一秘書佐々岡篤
「ありがとう。」
コンシェルジュにお礼を言い滋は急いで自分の部屋へと戻った。
バタン
バタバタバタ
部屋に入りカウチにバックを投げ捨てる。
ペーパーナイフを取り出し、封書を開封していく。
手元がおぼつかない。ナイフじゃなくてハサミを使おうかとも思ったが、取りに行く手間を考えそのままナイフを使うことにした。
手を切らないようにと考えながら。
不揃いの開け口から書類を取り出す。
滋はその報告書を一心不乱に読み更けていた。
「2年前そんなことがあったんだ。」
立て続けに発表した大きなプロジェクト。大河原の報告書にはそれを機に道明寺内の派閥の改変があったと記されている。
そしてそれから目立ち始める司の存在。
報告書には道明寺内の権力の大半を司が手中にしているとも書かれていた。
「力をつけているってことよね。だからつくしに会いに行ったんだ。」
そして報告書には妻の梢の事もあった。
梢の生い立ちを見て行く中で離婚の文字が目に飛び込む。
「え?この人司の前にも結婚していたの?」
なんでこんな人を司は選んだのか分からない。もしや司ではなくて司の母がまた画策した結婚だったのか?
いやそれも考え難い。梢の実家の会社はごくありふれた優良企業だ。どこが楓の目を引いたのだろう?
楓自身も変わったのだろうか?
つくしと別れてからの2年間に何かがあったとか?
滋は梢の身上書を細かく見ていきながら、司の考えを探した。
大学在学中に妊娠、結婚するも流産してしまいそのまま離婚。
実家に戻って数年後に縁談が持ち上がるがこれを蹴って、事業を始める。
その事業は軌道に乗りかけるが失敗し廃業している。
「父親が事業の整理をしている、、これじゃあ頭が上がらないな。」
規模は違えど同じ令嬢の身、梢の経歴は他人事に思えなかった。知らぬ間に自分に当てはめて読んでいて気づく。
「このタイミングで結婚?向こうから、、な訳は低いよね。じゃ道明寺側から?だったとしても喜べないよね、、、」
ハッ!
「そういう事?」
司の意図に気づいた滋。
ー離婚することを踏まえて結婚しているんだと思います。
桜子の言葉が蘇る。
つくしに会いに来た司の行動を推理した桜子。
「自分との結婚を望まない相手を選んで、離婚できるようにしたって事?なんで?」
なぜ?なぜ?と滋は考える。
確かに離婚するのはすごく大変だ。揉めることも多いだろう。
普通なら司と結婚できて嬉しいはずだ。
そりゃ司がつくし以外に優しくするはずはないから、すぐに不満を感じるだろう。
でも司の妻というステイタスをそう簡単に手放そうとはしないとか?
司の態度次第ではステイタスより他の愛を取りそうな気もするけど、、
いや相手によっては立場でステイタスでなく、捨てられたというプライドから別れようとしないかも、、
つくしの存在を知れば尚更だ。
「そうだとするとそんな立場の令嬢と結婚なんて出来ないわね。彼女を選ぶはずだわ。」
楓が選びそうな令嬢では、こじれることは容易に想像できる。
「でも何で結婚したの?しなくてもいいじゃん。」
そこが滋には分からなかった。
***
パサッ
滋に書類を返し、桜子はお茶を飲んだ。
考えをまとめているのだろうか、その動きはいつもよりゆっくりだった。
「どう思う桜子?」
「分かりません。」
小さく顔を振る桜子。
「調べた方ではあるでしょうが、いくら大河原でも道明寺の内部までは無理でしょう。書かれている内容は外から見えるものに限られてますし、これで道明寺さんの考えを読めと言われてもたどり着く訳ありませんよ。」
そうなのか?結構調べてあると滋は思っていたので意外な反応をする。
「滋さん。道明寺ホールディングスをそこら辺の企業と一緒にしてませんか?」
「してないよ。うちより大きいし、、」
尻込みする滋に桜子は分かってないなと理解するも、言い争いをしに来た訳じゃない。
ましてや道明寺ホールディングスの企業規模についての討論でもない。
「それでも道明寺さんの選んだ相手については意外でした。」
選んだ相手。
妻と表現しない桜子に滋は反応する。
「そうだね。この人、きっと司と結婚できても嬉しくないと思うんだ。」
「そう思います?」
「え?う、うん。え、桜子は思わない?」
「だって道明寺さんとの結婚ですよ。彼の事を良く知らないうちは、夢や希望を持つでしょう。」
「そうかなー?だって、この人結構失敗してるよー離婚に、縁談拒否、事業失敗、、親への負い目があって、しかも(司より)年上じゃない。私だったら嫌。」
桜子は滋の反応に意外というような反応をする。
「何よ。」
「いえ、令嬢ならではの考えなのかなと。」
「あんただってそうじゃない。」
「私は両親が他界してますし、そもそもこんな失敗しません。それに企業の令嬢じゃなくあくまで、旧華族ですから。滋さんとは立場が異なりますよ。」
そりゃそうだけどと滋は違いを考えてる。
「それだけじゃないですけどね。」
「え?」
「私達の周りには例え失敗しても失敗と思わないタイプの人間もいます。滋さんがそうお考えなのは、滋さんの性格もあるけど先輩の影響が大きくありません?」
つくしの影響。
滋はハッとなってしまった。
そうだ。英林でもそんな考えをもつ子ばかりだった。
損得でモノを考えて、私には大河原の娘というだけで近づいてきた。
「じゃあ、この人もそうかもしれないね。それだったら桜子の推理も違ってくる。」
結局何も分からずじまいかと滋はガッカリしてきた。
「いえ、違うと思います。」
「桜子、、」
「滋さんが先輩に影響されたように、道明寺さんも先輩には影響されてます。それも最大級に!」
桜子は身を乗り出して力説する。
「だからそんな人を選んだんですよ。失敗をちゃんと認識して、負い目を感じている人を。道明寺さんとの結婚をきちんと政略結婚だと認識しているはずです。なぜ彼女なのかの理由までは分かりませんが、離婚したい時期に離婚できる様コントロールをしているんじゃないでしょうか?」
2人は目を合わせる。
滋は固まりが解け、桜子は謎が解けたようで興奮している。
「じゃあ、司は離婚しようとしているってこと?」
桜子は頷く。
「間違いないです。」
「つくしには、、」
「私から言いますよ。」
途端に力を抜く桜子。滋のつくしに教えたい気持ちも理解できる。
「そうだ、ね。・・・まだ受け入れられないかな。」
力弱く滋が呟く。
女子会では桜子の推理に感情的に否定していた。
「会ってみて、判断します。」
「桜子もアレ以来?」
「そうですね。私もそれなりに忙しいですから。」
「そっか。じゃ、今日も悪かったわね。」
「良いんですよ。連絡待ってましたから。」
桜子は極上の笑みで返す。
そんな桜子を滋は本当に美人だなと思っていた。
「いつ、打ち明けるんですか?」
「いつって?」
「嘘ですよ。滋さんの嘘。」
滋が海外にいてなかなか帰れないと言う嘘だ。
「本当はこの前言うつもりだったの。」
「そうですか。」
桜子は分かってくれている。滋はそう思えた。
「自分で言うよ。自分で。」
桜子はうんうんと頷いている。
「いつ、、か。・・・そうだね。つくしが司とよりを戻したら言うよ。」
桜子は少し意外そうだ。
「今まで私、自分の考えばかり押し付けていた。だからつくしに避けられちゃったのね。あの2人は私なんかが心配しないでも、きっと元どおりになる。そうしたら私の嘘も言わなきゃ、つくしが怒るかなって、、」
へへと滋が笑う。
「滋さんも変わりましたね。」
桜子が言う。
「そう?」
「ええ。先輩に避けられた理由を受け入れている。それって難しいですよ。なかなか出来ないと思ってました。」
「そうだね。苦しかった。」
「私が滋さんの立場でも苦しむと思います。先輩には好かれたいですから。」
「うん。」
「私達って似てますよね。というか同じ?」
「同じ?」
「牧野つくしが大好きすぎるってとこです。」
「そうだね。つくしが大好き。」
「これって自慢できますよね。」
「できる、できる。つくしを知らない人って損してるって思うもの。」
「でも、道明寺さんとまたやり直したらそうはいかないでしょうね。」
「いかないね。司のことだから、閉じ込めるんじゃないかな?すぐ結婚だーってさ。」
分かりますと桜子と2人笑い合った。
つくしと司が再会して4日目に入籍する1年半前。
親友大好きな女2人は、遅くまで親友のことで語り合った。
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大河原で調べた司の調書。何からなんでも調べられるって変だよなも思いました。道明寺は大きい会社だし、セキュリティもしっかりしてるだろうし、、本編と合わせられてホッとしてます。
滋と桜子の謎解きからのつくし談話。司がいたら黙れってなりそうだよね。
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