有紀奈がガソリンスタンドを辞めて直ぐさま滋もガソリンスタンドのバイトを辞めた。
有紀奈は半年以上バイトを続けており中々貢献してくれたバイト生だったが、滋は3ヶ月そこらで辞めてしまった。
側から見たら落ち着きない人に見えるだろう。滋の素性を知る人物ならばやはりお嬢様だからと思う人もいるやもしれない。
しかし現場では滋がいなくなったことに安堵する声が広まっていた。
滋が何かをしでかした訳ではない。
現場に漂っていた緊張感のせいだ。
何せ滋はこのガソリンスタンドの配給元の御令嬢だ。身元を知っている所長や社員はどう扱って良いか分からないし、何よりSPがいる。体の大きな彼らはスタンドの制服を着てはいたが、目線の鋭さや彼らの緊張感から只者ではないことは直ぐに見て取れる。
滋も当然これには気付いており、父に対して不満を持っていた。
ガソリンスタンドでバイトすると父に言った時、危険物を取り扱うのだからお前には無理だと言われた。
しかし有紀奈がやっているのだ。
自分より10歳近く違う子が出来て自分が出来ないのはおかしい。
有紀奈の存在は敢えて言わず、そんなに危険な仕事をうちの会社はバイトにさせているのか、研修もあるはずだ、それともリスクマネジメントは出来てないの?と詰め寄った。
思わぬ滋の切り返しに父も一度は納得する、、ように思えたのは自分の都合の良い解釈だったらしい。
父との食事で両親から甘やかされて育てられたことが痛感していた滋にとってこのような父の態度は自分の行動を妨げるものでしかない。
実際、父が配置したSPは自分の仕事に手を出すのだ。いや、人よってはこれで良いと思うかもしれない。だが世間の荒波に揉まれたい滋にしてみれば、荒波をさざ波に変えてしまうSPは腹立たしくてしょうがなかった。
なのでこのままガソリンスタンドにいたところで事態は変化しないと悟るや、滋は次のターゲットにシフトした。
免許だ。
有紀奈から免許を取り足を持てば遠くに行けると言われた。
有紀奈の遠くとは単純に距離のことだったが、滋にとっては未知への冒険を意味する。
新たな出会い、発見があるだろうと思っていた。
しかしこのままではまた父に邪魔されるかもしれない。
滋はこの危機を打開すべくアドバイザーの元を訪れた。
***
「帰ってくるの早すぎない?」
「帰ってきた訳ではないです。」
今人気のスィーツを持参してかつての職場を訪れた滋に秦野は綻ぶ顔を隠さない。
「おっ、これクロワッサンドーナツね。美味しそー並んだの?」
「並ぼうとしたんですけど止められました。」
「ああ、、」
滋の事情を良く知る者は良かったねとは言わない。それが滋には嬉しかった。
そしてその会話を機に滋は不満をぶちかます。
秦野、乃梨子、香川、小田ら秘書課の面々は滋の苦労に気持ちは空いた口が塞がらないのだが、実際は口を動かし続けていた。
「教習所に通うの無理だな。モグモグ、、」
「普通にはとても、、モグモグ、ですね。」
「ていうか令子ちゃんが世間知らずなのが会長のせいだったのは分かっていたけど、程度が予想以上だわ。子離れできないのね。」
「子離れ?」
「そうだなー、モグモグ、、」
「会長は令子ちゃんのことをずっと見てたいのよ。巣立って欲しくないのね。だからそうやってしまうんだと思う。」
ちょっとあんた達食べ過ぎよと乃梨子も滋の話に耳を傾けながらもドーナツは譲れないらしい。
「それじゃあ、私はなす術無しですか?」
「そんな事はないと思うぞ。」
ドーナツ片手に秦野は話し始める。その口元にはシナモンシュガーが付いていた。
「普通に通うのは無理かもしれないが、セキュリティの問題さえクリアすれば良いんだろ?そして免許取得が目的ならばそれだけに集中すれば良い。」
「と、言うと?」
「郊外、、いや思い切って田舎に行き合宿するのさ。都心ならばSPも緊張感が高まるだろうが、田舎ならそうならないはず。合宿免許ってそういう地方の教習所が大体やってるはずだ。思いっきり人のいないところならOK出すと思うけどな。」
おお~と秦野に賞賛の表情を送る後輩2人プラス新人。(滋の代わりに移動してきた)
「なるほど。そういう手がありますか。・・・良かった。」
滋の最後の呟きが妙に感傷的だ。
「どうした?」
「ん、邸で教習させられるんじゃないかと思ってたんですよ。セキュリティを理由に。でもそれじゃあ外の世界が見れない。田舎でもその期待は薄いですが、邸よりはありますよね。」
「はあ?」
邸で教習ぅ~とあり得ないだろとみんなは口を揃えるが、そうやって免許を取得した人間を知っている滋には、ああこれが世間とのズレなんだなと思うのだった。
その後、秘書課のリサーチして決めた教習所に滋は通った。
もちろんSP付きだ。
しかし、今回は2人が交代で付くという今までよりはかなり軽い警護だった。
それもそのはず。
ここは限界集落のすぐ隣にある街の教習所で、地元の教習生も少ない。
教習所に通う人はそのほとんどが合宿参加者で、おまけに格安の超超超短期集中型だ。
滋はここで朝から夕方まで通った甲斐あって、ひと月半で免許が取得出来た。
これはかなり遅いほうだ。早い人は2週間程で取って帰っていく。
滋は参加人数も少ないことから技能教習に力を入れた。教習所内でのコースは何度も周り運転技術は身体で覚えた。教習車を何度も擦ったり、ぶつけてしまったが終了後に全部修理し、更に寄付することで話を付けた。(この辺りはまだズレを認識していない所がある)
そして免許を取得し東京に帰ってきた滋にあるニュースが飛び込んで来た。
司の離婚である。
実は合宿中、免許取得に集中するあまり滋は外部の情報をシャットダウンしていたため梢の記者会見やそのニュースは知らなかった。
免許を取得したとたんに耳にした明るいニュース。
滋は自分が外に飛び出したからこそ、歯車が動き出したと確信していた。
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さぁ、これから滋さんのサクセスストーリー、、、サクセス?になるかは分からない。
まだ未定です。
有紀奈は半年以上バイトを続けており中々貢献してくれたバイト生だったが、滋は3ヶ月そこらで辞めてしまった。
側から見たら落ち着きない人に見えるだろう。滋の素性を知る人物ならばやはりお嬢様だからと思う人もいるやもしれない。
しかし現場では滋がいなくなったことに安堵する声が広まっていた。
滋が何かをしでかした訳ではない。
現場に漂っていた緊張感のせいだ。
何せ滋はこのガソリンスタンドの配給元の御令嬢だ。身元を知っている所長や社員はどう扱って良いか分からないし、何よりSPがいる。体の大きな彼らはスタンドの制服を着てはいたが、目線の鋭さや彼らの緊張感から只者ではないことは直ぐに見て取れる。
滋も当然これには気付いており、父に対して不満を持っていた。
ガソリンスタンドでバイトすると父に言った時、危険物を取り扱うのだからお前には無理だと言われた。
しかし有紀奈がやっているのだ。
自分より10歳近く違う子が出来て自分が出来ないのはおかしい。
有紀奈の存在は敢えて言わず、そんなに危険な仕事をうちの会社はバイトにさせているのか、研修もあるはずだ、それともリスクマネジメントは出来てないの?と詰め寄った。
思わぬ滋の切り返しに父も一度は納得する、、ように思えたのは自分の都合の良い解釈だったらしい。
父との食事で両親から甘やかされて育てられたことが痛感していた滋にとってこのような父の態度は自分の行動を妨げるものでしかない。
実際、父が配置したSPは自分の仕事に手を出すのだ。いや、人よってはこれで良いと思うかもしれない。だが世間の荒波に揉まれたい滋にしてみれば、荒波をさざ波に変えてしまうSPは腹立たしくてしょうがなかった。
なのでこのままガソリンスタンドにいたところで事態は変化しないと悟るや、滋は次のターゲットにシフトした。
免許だ。
有紀奈から免許を取り足を持てば遠くに行けると言われた。
有紀奈の遠くとは単純に距離のことだったが、滋にとっては未知への冒険を意味する。
新たな出会い、発見があるだろうと思っていた。
しかしこのままではまた父に邪魔されるかもしれない。
滋はこの危機を打開すべくアドバイザーの元を訪れた。
***
「帰ってくるの早すぎない?」
「帰ってきた訳ではないです。」
今人気のスィーツを持参してかつての職場を訪れた滋に秦野は綻ぶ顔を隠さない。
「おっ、これクロワッサンドーナツね。美味しそー並んだの?」
「並ぼうとしたんですけど止められました。」
「ああ、、」
滋の事情を良く知る者は良かったねとは言わない。それが滋には嬉しかった。
そしてその会話を機に滋は不満をぶちかます。
秦野、乃梨子、香川、小田ら秘書課の面々は滋の苦労に気持ちは空いた口が塞がらないのだが、実際は口を動かし続けていた。
「教習所に通うの無理だな。モグモグ、、」
「普通にはとても、、モグモグ、ですね。」
「ていうか令子ちゃんが世間知らずなのが会長のせいだったのは分かっていたけど、程度が予想以上だわ。子離れできないのね。」
「子離れ?」
「そうだなー、モグモグ、、」
「会長は令子ちゃんのことをずっと見てたいのよ。巣立って欲しくないのね。だからそうやってしまうんだと思う。」
ちょっとあんた達食べ過ぎよと乃梨子も滋の話に耳を傾けながらもドーナツは譲れないらしい。
「それじゃあ、私はなす術無しですか?」
「そんな事はないと思うぞ。」
ドーナツ片手に秦野は話し始める。その口元にはシナモンシュガーが付いていた。
「普通に通うのは無理かもしれないが、セキュリティの問題さえクリアすれば良いんだろ?そして免許取得が目的ならばそれだけに集中すれば良い。」
「と、言うと?」
「郊外、、いや思い切って田舎に行き合宿するのさ。都心ならばSPも緊張感が高まるだろうが、田舎ならそうならないはず。合宿免許ってそういう地方の教習所が大体やってるはずだ。思いっきり人のいないところならOK出すと思うけどな。」
おお~と秦野に賞賛の表情を送る後輩2人プラス新人。(滋の代わりに移動してきた)
「なるほど。そういう手がありますか。・・・良かった。」
滋の最後の呟きが妙に感傷的だ。
「どうした?」
「ん、邸で教習させられるんじゃないかと思ってたんですよ。セキュリティを理由に。でもそれじゃあ外の世界が見れない。田舎でもその期待は薄いですが、邸よりはありますよね。」
「はあ?」
邸で教習ぅ~とあり得ないだろとみんなは口を揃えるが、そうやって免許を取得した人間を知っている滋には、ああこれが世間とのズレなんだなと思うのだった。
その後、秘書課のリサーチして決めた教習所に滋は通った。
もちろんSP付きだ。
しかし、今回は2人が交代で付くという今までよりはかなり軽い警護だった。
それもそのはず。
ここは限界集落のすぐ隣にある街の教習所で、地元の教習生も少ない。
教習所に通う人はそのほとんどが合宿参加者で、おまけに格安の超超超短期集中型だ。
滋はここで朝から夕方まで通った甲斐あって、ひと月半で免許が取得出来た。
これはかなり遅いほうだ。早い人は2週間程で取って帰っていく。
滋は参加人数も少ないことから技能教習に力を入れた。教習所内でのコースは何度も周り運転技術は身体で覚えた。教習車を何度も擦ったり、ぶつけてしまったが終了後に全部修理し、更に寄付することで話を付けた。(この辺りはまだズレを認識していない所がある)
そして免許を取得し東京に帰ってきた滋にあるニュースが飛び込んで来た。
司の離婚である。
実は合宿中、免許取得に集中するあまり滋は外部の情報をシャットダウンしていたため梢の記者会見やそのニュースは知らなかった。
免許を取得したとたんに耳にした明るいニュース。
滋は自分が外に飛び出したからこそ、歯車が動き出したと確信していた。
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