甘さとスッぱさと ... イベリス 12
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イベリス 12
2017-06-29-Thu
発車したリムジンが200メートルほど走った後、老婆は顔を上げた。


カツンと杖をついて振り返る。

そこには老婆の他数人の女性が立っていた。


「それじゃあ、あたしはあの女性の世話をしてくるよ。お前達はいつもの業務に戻ってくれ。」

「はい。・・・あの、タマ様、、」

「何だい?」

「あの女性は、、」


ギロッ

ビクッ


「それは詮索する事じゃない。あたし達はここに使用人として雇用されているんだ。主人が連れて来た者は誰であろうと主人の客人だ。いつも通りにもてなすんだよ。」

「かしこまりました。」

「それなら、ほら、行った、行った。」


目つき鋭い老婆に喝を入れられ縮こまるように女性達は持ち場へと移動して行った。

ここにいた使用人は今朝の当番。

20代から40代と年齢に幅があるが、この邸に勤めているだけあって主人の事を良く知っている。

昨夜の当番から聞いた話もあるだろう。

どんな噂話をしているのか、これからしていくのか彼女達を束ねる老婆はそこが気がかりだった。




コツコツコツ、、



部屋に着いた老婆はノックをする手を止め、しばし考えた後控えめに叩いた。


老婆にとって音もなく部屋に入る事は容易い事だった。

束ねる使用人の抜き打ちに行うばかりで、主人に対して行う事はほとんどない行為だが、誰よりこの邸について把握しているだけあってその動きは主人から揶揄されるような静けさだった。




「・・・・・」



「うにゃ、、くっ、、ほっ、、ん~~もぉーー」


部屋には女がいた。

いやいるのは知っているが、老婆の想像とかなり離れた状況だった。


その女は背中のファスナーと格闘していたのだ。


よっぽど身体が硬いのか、ファスナーひとつに苦戦している。

その間抜けっぷりに老婆は緊張感を失ってしまった。

しばらく見ていたが、諦めないのではなくやけっぱちになってる様子に気づき、


「ずっとやり続けるのかい?」

「うぎゃーーーーー」



キーーーーーーーン



思わぬ女の反応に逆に老婆は驚かされ、目を真開いて固まってしまう。

その様子に女が声をかけた。



「す、すいません。大声を出しちゃって、、あの、おばあさん、大丈夫ですか?」

「・・大丈夫なもんかい。息が止まるかと思ったよ。」

「すいません。良かった止まりはしなかったんですね。」

「良い訳あるか!」

「ひぃっ。すいません!」


女のビクついた態度を部下の使用人のように思った老婆は機転をきかせる。



「全く世話が焼けるねぇ。ファスナーひとつにそこまで時間かけてどうするんだい。ほら、やったげるからこっち来な。」

「はい。ありがとうございます。」


ファスナーを閉め、老婆はキラリと目を光らせる。


「それで、そんな皺になった服を着てどこに行こうってんだい?」

「えっ、あ、どこと言う訳では、、そのここで待つように言われたんで、この部屋から出るつもりはありません。」

「ふん、そうかい。しかし着替えようとは思わないのかい?」

「あ、着替えを持ってなくて、、」

「着替えの事は言ってなかったかい?」

「言ってました。・・用意するって、、あの、貸してもらえますか?」

「ふぅ。貸すも何もあたし達の主人がそう言ったんなら、用意するよ。用意するに決まってるじゃないか。そんな事で遠慮しないでおくれ。」

「あり、がとうございます。」


老婆の優しい声色につくしはホッとして安心してしまった。


「サイズは9号かね。細さからいったら7号でもいけそうだねぇ。」

「あ、そうですね。あたしのサイズはその真ん中くらいなんですよ。だからどっちでも大丈夫です。」

「ふむ。なるほど、じゃあ持ってこよう。今着てるのと同じのが良いかい?」

「え、今着てるの?」

「そう。ワンピースで良いかねぇ。」

「・・あるので良いんですけど、選べるんですか?」

「ああ、選べるよ。この邸にはどんな来客にも対応出来るように一通りの衣類が準備されてある。」

「一通り?どんな、、来客って、、なんか軽く言ってますけど、用意してるのは普通にシャツとかズボンとかだけですよね。」


ジロッ

ビクッ


「シャツとかズボンとかだってえ?何を言ってるんだい。このあたしが取り仕切ってる道明寺邸のもてなしがそんなガッカリなもんな訳がないだろう。」

「え?おばあさんが道明寺邸を取り仕切ってるんですか?」

「おばあさん?あんたあたしを年寄り扱いするのかい?!」

「ひいっ。すいません。」

「いくら主人の客でも年寄り扱いはまっぴらゴメンだよ。あたしの名前はタマだ。ばあさんなんて呼ぶんじゃないよ!」

「はい!分かりました。」

「で、あんたの名前は?」

「牧野つくしです。」

「・・・・・」

「あ、あの?」

「シロじゃないのかい?」


ハッ


分かりやすく口を手で押さえる女。


「今更だよ。シロという名前が主人からも仮名だと聞いている。」

「あう、あう、うう~~」


女は困ったような顔をしていた。

その情けない顔っぷりに老婆は女がポーカーフェイスなどできない素直な人間だと思った。

とはいえそれも演技かもしれないとの疑いを捨てずに持ちながら。


「どうだい、、話してくれないかい。なんで主人に名前を言わないのかを、、、タマとシロの仲じゃないか。」

「タマとシロ?」

「どっちも猫みたいな名前だろ。あんたにシロと名付けたのは主人じゃないのかい?だったら、主人はあんたとあたしを同等に考えている。同じように信用しているんだ。だからあたしにあんたの世話を頼んだ。どうでもいい人間だったらあたしに頼みゃしないよ。」


老婆の言い訳は咄嗟に取ってつけたものどった。

老婆はこの女の素直さに賭けた。

それは主人がこの女をどう思っているのか期待していたからである。



「それは、、」






***


「そういう訳だ。」


一方、道明寺ホールディングス日本支社最上階執務室。


老婆の主人である男が秘書に女との経緯を説明していた。


能面秘書は眉をひそめてただ聞いていた。


話し終え男の満足する顔を見るまでは。



「それで本当に身元を調べないのですか?」

「そのつもりだ。身元は調べねぇであいつの口から聞き出す。」

「どのように?」

「俺に惚れさせる。」

「惚れさせる?」

「今はまだ、、惚れてねぇんだ。ま、時間の問題だけどよ。」


自信満々な男の態度。

秘書はその態度の変化に不安を覚えた。

それは男を信頼してないからではない。



「だから余計な事はするな。」


男は座っていた椅子をクルッと回して秘書に背中を向ける。

男が向いた先は大きな窓に面した一角で、邸の方向に向いていた。


「かしこまりました。」



パタン


秘書は執務室を出て右手の中指で眼鏡を直した。


顔を上げた秘書の顔は能面の顔ではなかった。





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誤字を指摘してもらいました。

そしてR(イチャコラ)推進委員会本部に投稿させてもらっている「不思議な夏」ですが、土日休みで連投させてもらってます。
こちらもドウゾ。

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