甘さとスッぱさと ... イベリス 14
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イベリス 14
2017-07-03-Mon
pm5:15

道明寺邸内某所


あはははは、、


普段黙々と作業をするこの場所で笑い声が響いていた。


カツン


「随分楽しそうだね。」

「あっ、タマさん。お疲れさまです。」


つくしがタマに声をかけるとその場にいた数人の使用人はタマに頭を下げた。


「気分転換になったかい?」

「はい。すっごくなりました。とっても楽しいです。」

「くくく、この場所で楽しいと言えるのがあんたなんだね。楽しめたんなら結構だ。だが、続きはまた明日にしておくれ。そろそろ夕食の時間だ。」

「明日もやっていいんですか?」

「やりたいんだろ?」

「はい。是非!」

「それじゃあ、部屋に戻るよ。夕食の前に汗を流したいだろう。」

「はい。あ、じゃあ皆さん明日もまたよろしくお願いします。」

「はい、白田様お待ちしております。」

「また明日がんばりましょう。」

「はい。お先に失礼します。」


使用人達に声をかけつくしはその場を後にした。

つくしは作業する際にタマからシロと紹介され、不思議がる使用人達に白田なんでシロと呼んでくれと咄嗟に嘘を付いたのである。

タマはそれに異を唱えなかったが、タマからは主人の客人だと紹介されたため流石に使用人達はつくしをシロと呼び捨てする事はせず白田様と呼んでいたのである。



「さてと、シャワーの後の着替えだがワンピースはやめた方が良さそうだね。」

「なぜですか?」

「なぜって、今朝あれだけ苦戦していたじゃないか。まぁ、脇にあるワンピースを用意も出来るけどね。」

「い、いつもはあんなにならないんですよ。ちょっとあの服がぴったりし過ぎるから、、」

「ぴったりって、それが当たり前じゃないか。」

「当たり前じゃないですよ。既製服だったらもっとゆとりがあるじゃないですか。」

「それは大量生産の服だからだろ。ゆとりがあるというが、身体に合ってない服はだらしないと思うのがこの世界だ。」

「この世界、、」


つくしは口を閉ざした。普段着一つでも考え方が違う事に納得してしまったからである。

タマはそんなつくしを見守るように見ていた。



「でもま、あんたがそういう服が良いというなら用意するよ。」

「あ、いえ、そんな事は言いません。郷に入れば郷に従えですから。だらしなくない服装をお願いします。」

「・・あまり我慢するのも良くないよ。あんたは自分を抑える人間のようだ。」

「でも、それが当たり前ではないですか?
多少理不尽だと思う事でも命令されたならば従わなければならない。」

「命令、、あたしはあんたに命令なんてしてないよ。主人にはあんたをもてなせと命令されているけどね。」

「あたしも彼に命令されてここにいるようなものです。だからってタマさんと同じではないけど、、、それに!あまりもてなされると泣いちゃいそうだから、そんなにしなくても良いですよ。さっきの作業だけでも充分もてなされましたから。」



ふふふと笑う顔がタマには笑い顔に見えなかった。

タマはポンポンとつくしの背中をたたく。


「そうやって無理したらやってられないよ。主人の考えはあたしにも分からないけれど、あんたの境遇は同じ女として分からなくもない。だからこそあたし相手にも頑張らなくていいんだ。もっと我儘を言っておくれ。」


タマの優しさにつくしはじわっと涙ぐんでしまった。


「はい。」

「それじゃあ、シャツとスカートを用意しよう。ズボンが良いかもしれないけど、そこはもう少し我慢しておくれ。」

「・・はい。」


涙ぐんだつくしだったが、なぜタマがスカートで我慢しろと言ったのかまでは分からなかった。






ジャーー、、、キュッ。


つくしは濡れた髪を手で軽く絞る。

そして手で濡れた髪を解すと、コンディショナーの違いからかするんと指が通り、小物ひとつでも違うと首を振っていた。


バスルームを出ると、カゴにバスタオルと着替えが置いてあった。

大きなバスタオルを巻くように体を拭いていく。

ふかふかなタオルは吸水性が良いだけではなく肌触りも良かった。

だが普段のタオルとの違いにつくしはいつものゴワゴワなものが恋しく思う。

お気に入りの柔軟剤を少しだけ使うため、普段使うタオルは柔軟剤の効果をほとんど感じさせず親友には駄目出しされたが、つくしはほんのり香り付け出来れば良いと思っていたため幼い頃からのゴワゴワタオルにし続けていた。


拭いた後の身体を触ってみる。しっとりとした肌触りはここのボディソープを使ったからなんだろう。

そうすると、普段いかに自分が女子力に気を使ってないかと気がついた。

貧乏だった子ども時代ならともかく、社会人となりそれなりに収入を得ているにも関わらず美容にお金や労力をかけなかった。

好意を持つ男性がいなかったからだろうが、そもそも恋人を作ろうとしなかったのである。

恋人がいれば、もっと恋愛に関心を持っていればこんな状況になってなかったかもしれない。

そう考えてまた落ち込んだ。


その時、はたと気付く。


タマがエステを受けないのかと聞いた事を。


ー自分磨こうとは思わないのかい?ー


あれはそういう事だったのかと。



「垢すりって、そりゃ笑われるわよね。なんでこんなにボケボケなのよあたしは、、」


タオルを口に当て、今更ながらに自分の発言を恥ずかしく思う。


「でも、垢すりだって大切よ。磨くって事では間違ってないじゃない。」


ぶちぶち言ってみるが、恥ずかしさは解消されなかった。



用意された着替えを手に取る。

下着も用意されてた事にもてなしってここまでする事なんだろうかと疑問に思ったが、着てみて気付いた。

シャツはサイズが大きいのである。

いや、大き過ぎる訳ではない。これが当たり前と言えば当たり前だ。

服を借りて少しサイズが合わない。だけど合わな過ぎでもない。


タマとの先ほどの会話からして、普通にしてくれたんだとつくしは思った。


ー同じ女として分からなくもない。ー

ーだからあたし相手にも頑張らなくていいんだ。ー

ーもっと我儘を言っておくれ。ー



タマの言葉が感情を揺さぶる。


檻の中に連れて来られたと思っていたけれど、自分に味方してくれる人だっているんだ。震えなくて良いんだと信用する礼儀を感じていた。





コンコン


「はい。」


カチャ


「さぁ、夕食を持って来たよ。ほらたんとお食べ。」

「ありがとうございます。」


つくしはタマに心を許そうと思った。自分のためにも許す事が頑張れる事だと思ったからだ。






pm20:45


食事も終え、つくしはぼーっとしていた。

外はとっぷりと暮れ、夜の闇に包まれている。

あとどれくらいかは分からないが、男が帰宅するはずだ。


帰って来たら対面しなくてはならない。

ベッドでの相手をする気持ちの切り替えをしなくてはと思っていた。


腰かけていた窓枠から立ち上がる。

バックを取りに行こうと歩き出して振り返ると、窓に映った自分の姿が見えた。


袖の短いシャツに膝丈スカート。

むき出しになった二の腕に膝下の足はか細く、あの男でなくても容易く押し倒されそうだと思った。



ーズボンが良いかもしれないけど、、、我慢しておくれ。ー



またタマの声が頭を過る。

ああそういう事だったのかとタマの思いやりに触れ、目を閉じ息を長く吐いた。


ゆっくりと目を開けた時、つくしの目には迷いはなく、バックを手に取りトイレへと入って行った。





pm21:55


部屋のドアが静かに開いた。


窓際の大きな椅子につくしは座ったまま、眠っていた。


すう、すう、と肩が揺れている。


誰かが覗き込むようにつくしの目の前に立つがつくしは気付かない。


大きな手が動き、、


つくしの左頬に優しく当てた。

唇を撫でられ、無意識につくしは口を少し開ける。


ぷにゅっと指で唇が押される。

形の変わった唇を見て誰かが小さく笑った。


笑われた事につくしが気付く。


「起きねぇな。しょーがないぜ。」


バチッ


ハッとしてつくしが目を開くと目の前には綺麗な顔があった。


「ぎゃあ!」


驚きのあまりつくしは椅子から下にズレ落ちてしまった。


が、それによってスカートがばっくりと捲り上がってしまい、膝を閉じてはあたふたと手でスカートを押さえようとするものだから、


ドサッ


結局椅子から落ちてしまった。



その落ちた先は男の足元であった。



「くっくっく、、悪ぃ。驚かせちまったな。」

「あ、ううん。あたしこそ、寝ちゃって、、起きて、、」


男の手が目の前に出されつくしは言葉を止めてしまう。


そして男に手を引かれつくしは立ち上がった。


見上げて言葉の続きを飛ばした。


「お帰りなさい。」


男は驚いたように一瞬固まり、

そして表情を崩して満面の笑みを浮かべた。


「おう。ただいま。」





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この回から老婆ではなくタマと書こうと思ってます。

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