FC2ブログ
2018
01.31

birthday song 中編

タマが帰国した後、ガキがいなくなっても俺は階段で足を止めていた。


自分と似た境遇だから、あのガキが気になるのかと思った。


だが違う。それだけじゃねぇ。

あのガキの存在は俺の中の何かを刺激している。

それがいったい何なのか俺自身分からないでいたが、そのまま放置する事も出来ず、俺はタマに電話をかけていた。




「援助、ですか?」

「ああ、何か援助をしたい。あいつ片親だろ? 母親がうちの使用人ならそれなりに困らねーかもしれねーが、俺が援助しても別に悪くねーだろ。…まぁ、俺も稼いでも使いようがないし、とにかく受け取れよ。」



単なる気まぐれだと援助を押しきったら、後日ピアノを習いたいと連絡があった。


俺はそれを聞いて笑っちまった。下手くそなのになぜか笑顔で、自信満々に弾いている様子が勝手に頭に浮かんだからだ。



「坊っちゃん?」

「くくく、良いんじゃねーの? やらせろよ。んで、弾けるようになったらこっちに弾かせに来いよ。」

「え?  弾かせに来いってNYにですか?」

「ん? ああ、俺はそっちには行けねーから。弾けるとこ見てえし。」

「なら、あたしがビデオに撮って送りますよ。あの娘はまだ5つで、何度も長時間の飛行機には乗せられませんからね。先日も長すぎるって文句たらたらでしたから。」



その文句言ってる様子も浮かんで俺はまたくくくと笑った。



「そうか。それなら週一で送れよ。下手くそでも、ちゃんとやってるかどうか分かるしな。」

「…やってるかなんて、やるに決まってますよ。あの娘は母親に似て真面目なんですから。」

「へぇ、そりゃ楽しみ。」



俺はそいつの母親には興味はなかった。

そいつを育てるためとはいえ、娘をほったらかしてまで仕事をする事に、ババアを連想させて気分を害したからだ。


だから、電話の向こうでタマが気を落としていた事には気づかなかった。



そうしてガキはレッスンを始め、翌週にはその成果発表の動画が送られてきた。


深夜帰宅して、着替えもせずにPCを起動し、動画を視聴する。


俺は声を出して笑っていた。



そこには下手くそとしか言い様のない、ピアニストがいた。


ピアニストと表現するには大袈裟かもしれねえ。だか態度だけは堂々としていた。

表情も不安な顔なんてせず、気合いが入ってて全力で演奏している事は間違いなかった。



『あの娘は母親に似て真面目なんですから。』



タマの声が頭に甦り、まぁババアとは違うかもな、と思った瞬間ー



ズキッ



今までにはない強い頭痛に俺は顔が歪んだ。



そして、ふっと何かが見えた。



ーピアノに、女?!



頭痛が治まった事で、PCを見ると動画は止まっていて再生のボタンが表情されていた。


その再生ボタンをクリックする。



音を聴かず俺はガキの顔をじっと見つめた。


演奏が終わり、ガキが顔を上げた。



その瞳、


その眼差し、




俺ははっきりと思い出した。




あれは俺の誕生日だ。


誕生パーティーでババアだかにピアノを弾けとけしかけられたあいつがやけくそになって弾いたとこだ。


その時に大河原と婚約だとかふざけた事を抜かしやがったんだ。あのババア!



だが、それは断ったはずだ。大河原の方から。



そして俺らは…





その後の事を思い出し、俺は愕然とした。


俺とした事が…


なんで、なんでだ!



なんで俺はあいつの事だけ忘れちまったんだ!!




俺は肩を震わせ泣いていた。



あいつを罵った。

邸から追い出した。

あいつが、俺に思い出してくれと訴えたのに聞かなかった!


あいつらの声も俺は無視した。


思い出せ。お前にとってとても大事な事だと、あの類さえもが言っていたのに。


俺はあいつを類の女だと決めつけ、はね除けた。



バンッ



やるせない怒りで俺はデスクを叩きつけた。


するとマウスに触ったのか、また動画が再生される。



~♪、♪、♪、~♪



弾いてるとはいえない調律が耳に届く。


音楽など、興味さえなかった俺の頭にこのメロディが浸透する。



そして俺は思った。



ーこいつは誰だ?



あいつに良く似た顔のガキ。


5つ。つまり生まれたのは5年前。しこんだのは…




あの時か。




俺はあいつと結ばれた夜を思い出した。



大河原に拉致られ、無人の船の中、停電しシャワーから聞こえるあいつの叫び声に…



抱きしめた。


後ろから、あいつの裸を見ないように抱きしめた。



そして、俺らは結ばれたんだ。



…泣いてた。


だが、笑ってくれた。


鼻をすすりながら。


鼻水と涙ですげー顔だったはずなのに、可愛いかった。



世界で一番愛しかった。


俺は幸せの絶頂だった。





なのに、なのになぜ俺はここにいる?


俺はひとりでここにいるんだ?


あいつを傷つけたまま日本に残して!




自分の事に打ちひしがれて、俺は頭を強く掻きむしった。


だが、掻いたところで痛みは感じねぇ。

俺はあいつに与えた以上の痛みを自分に与えたかった。



拳を自分の頬に打ちつけようと立ち上がる。



するとカーテンの隙間、暗闇が鏡となって俺の顔を映し出した。



情けねえ。


なんて情けねえ顔をしてるんだ俺は。



「こんな事してても意味がねぇ。俺が痛みを感じたところであいつの痛みが取れる訳でもねぇ。単なる自己満足だ!」



俺は自分のすべき事を考えた。


あいつの事をはっきり思い出した以上、このままでは終わらせねぇ。


あいつは俺のもんだ。


あいつが俺のガキを、いや俺の子どもを産んだのならあいつの中に俺はまだいるはずだ。


いや、絶対にいる!



『地獄の果てまで追いかけてやる。』



どんなに嫌われてようと、諦めきれず追いかけた。


あの時に比べたら、さらにマイナスの立場かもしれねぇ。



だが!



「お前がいなきゃ、俺は生きている意味がねぇ。お前に棄てられ屍になどなってたまるか。俺は、俺は…」



拳に力を込める。

俺の中で活気の炎がまた点火した。



「俺はお前をまた取り戻す。お前の子どもも一緒に。」






にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

原作ではなくドラマの方で書いてます。あのパーティーって坊っちゃんの誕生日だったよね?
違ってたらゴメン。
関連記事
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://lemmmon.blog.fc2.com/tb.php/377-6e8f32ef
トラックバック
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.01.31 06:19 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top