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2018
01.31

birthday song 後編 part2

走り続けると決めた俺は、これまで以上に仕事に没頭した。


会社に泊まり込むなんて当たり前。


邸に帰る時間さえ惜しかった。


唯一邸に帰ったのは娘の動画が届く日のみ。だから邸には週に一度しか戻らなかった。



娘の腕前は日に日に上達していき、三週目には一曲通して弾けるようになっていた。


そして俺はこの動画に衝撃を受ける。


それは曲の終盤、娘にかけられた小さな声。


その声で娘は逆にとちってしまい、弾き終えた後誰かを睨んでいるようだった。


動画はそこで終わってしまった。


俺はその声を何度も再生して聞き続けた。



「…余計な事するのがお前らしい。」



記憶を取り戻してから初めて感じる牧野の気配に、俺の心は踊った。


娘の姿だけでも何よりの活力になるのに、牧野の声はそれ以上のものを俺にもたらせた。



そしてまた一週間が経ち動画が届く。



そこにはまた牧野の気配が映し出されていた。



だが、今度は小さな声なんかじゃねぇ。


つうか、歌ってる。


牧野は娘の演奏に合わせて歌っていやがった。



娘の顔がズームアップする。


笑っている。


娘は楽しそうに笑い演奏していた。


娘は手元と牧野を交互に見るため、何度もとちっていた。


だが気にしちゃあいねぇ。


楽しくて楽しくてしょうがないとばかりに笑顔で鍵盤を弾いていた。


そのうち手拍子も聞こえてきた。


ひょっとしたら、それで娘の演奏を誤魔化そうとしてんのか?


そう思えるほど、手拍子は段々と大きくなっていった。



_暖けぇ。


心が暖かくなる事を俺は感じていた。



ついこないだまで、感情をなくしていた俺にはもう戻れない。



俺は寝るのも忘れ動画を飽きる事なく見続けていた。





そしてまた一週間が過ぎた。



朝機嫌良く仮眠室から出てくると、秘書が言い辛そうに報告してきた。



「はあ? 今日は送ってこないだと?」

「はい。何でも明日に延期したいそうでして。」

「何で明日なんだよ… はっ!! ひょっとしてあいつ風邪でもひいたのか?」

「メールで報告があっただけなので、そこまでは存じ上げておりません。」



こいつに言っても時間の無駄だとスマホを取り出しタマに電話をかける。



「坊っちゃんどうしたんですか? こちらはもう寝るところなんですよ。」

「るせー! おい、今日送らねぇってどういう事だ? ひょっとして、つつじ寝込んでいるんじゃねーのか?」

「…寝込んでなんかいませんよ。」

「だったらなんで今日送ってこないんだ!」

「はぁ…」

「溜め息つくんじゃねー!」

「つきたくもなりますよ。一日くらい我慢出来ないんですか?」

「くっ… うるせーよ。」

「全く。少しは辛抱というのを覚えて下さい。あの娘は坊っちゃんに上手くなったところを見せようと毎日がんばっているんです。今日は動画を撮影する日だったんですが、とちってしまって、上手く演奏できなかったんです。あの娘の気持ちをちょっとは考えてやれませんかねぇ。坊っちゃん、会えないとはいえ父親なんですよ!」



タマの言い分に俺は何も反論できず、そのまま電話を切ってしまった。


そして、イライラを落ち着かせるために秘書を下げらせ、執務室の中でひとり、日本でレッスンに励む娘を想いやった。



「俺だって父親の自覚を持ちてぇよ。くそっ。タマの奴痛いところを突きやがって!」



深呼吸し、気を鎮めようと努める。


だが中々気は鎮まってくれず、俺は執務室内をうろうろと歩き出した。



「くそっ。こんなにイライラしたら、今日一日使いもんにならねぇ…」



今はまだ朝の8時過ぎ。俺の一日はこれから始まるところだった。


動画を受け取るのはいつも夜、そこで俺はなぜこんなに早く連絡してきたのかと違和感に気づいた。


確かにとちって上手く撮れなかったかもしれねー


だが、俺が動画を見るのはいつも決まって夜だ。


だったら、まだ撮り直す時間はある。


俺が動画を見るのが深夜なら、向こうは昼前になるはずだから。



その時、俺のスマホが着信を知らせた。


スマホの表示を目にした俺は居ても立ってもいられなかった。









キィィィィイイーーーーン




カツカツカツ



「確かに13時間は長ぇよな。」



タラップを降りながら俺は娘と同じ愚痴をこぼした。




そして数年ぶりに世田谷の邸に到着する。


エントランス前で俺を出迎えたのは、数人のSP達だけだった。



「タマには言ってないだろうな?」

「はい。司様の帰国はSPのみで口を閉じております。」

「よし。」




俺は勝手知ったる邸を進んだ。


途中で使用人に見つかったが、今さらタマに言ったところでどうしようもないだろう。


俺は目的の場所目指して駆け出すように歩み進んだ。



そして目的の場所に到着した。

ここはパーティーなどを行う大広間。

ここにはグランドピアノが置かれてあった。


そう、あの動画の撮影された場所だ。



音を立てぬようドアを少しだけ開けると中から音が漏れてくる。



期待していたメロディが耳に届いた。



俺は堪らずゆっくりとドアを開けた。



そして視界に捉えたのは、愛する二人。



俺に背を向け、二人で座っていた。


つつじが演奏し、牧野が手拍子で見守っている。



俺は二人に気づかれないように、そっとドアを挟むように佇んだ。



「あっ、また。」

「くす。そこは難しいね。」

「うん。でももう一回。」



頬を膨らませながら演奏に没頭するつつじ。

それを優しい顔で見守る牧野に俺は胸が熱くなった。



そんな俺の邪魔をするコツコツとした杖の音。



二人もタマに気づき、つつじは演奏の手を止めタマを向き、


そして牧野は俺の視線を感じ取った。



6年ぶりに重なる視線。



タマも俺の方を向いたため、つつじも俺の存在に気づく。



何も言わない牧野に俺は胸が苦しくなる。



だが、



「坊っちゃん、何勝手に帰国してるんですか。秘書が皆困ってますよ。」

「あ? 硬ぇ事言うなよ。 休みなく働いてるんだ。一日くれぇ構わないだろ。」

「…はぁ。気づいてしまいましたか。坊っちゃんの仕事を邪魔しないように気を使った事が仇になりましたね。」

「気を使う?」

「動画が届くからと仕事を早めて帰るんじゃないかと思ったんです。でも帰って届いてないと分かったら癇癪を起こすだろうなと。だから早めに連絡したんですが…」



流石タマ、俺の事を良く分かってるじゃねーか。



「ふん。だったらこうなるのも、想定内だったんだろ?」



黙るタマ。

そしてちらっと牧野の方を向いた。


牧野はタマの視線を受け、困ったように身を硬くする。



そんな牧野を見上げたつつじ。



「パパ! つつじのピアノ見て! 上手に弾けるようになったんだよ。」



俺はパパと呼ばれた事に動けずにいた。



「あ、ああ。」

「えへへ~ じゃ、見ててね。」



つつじは鍵盤に向かい、弾き始めた。


ゆっくりと鍵盤を叩き、メロディを紡いでいく。



ドードレード、ファー、ミー

ドードレー、ド、ラー、ファー

ドードラー、ファー、ミー、レー

シーシ、ラー、ファ、ソー、ファー




演奏を終えたつつじは満面の笑みで俺を見た。



「パパ、お誕生日おめでとお!」



俺は堪らずつつじを抱きしめた。



「サンキューつつじ。すげえ嬉しい。」



えへへと照れるつつじの頭をガシガシと撫でる。


つつじの頭は爆発するように乱れた。



その様子に呆れたタマだったが、部屋に食事を用意していると俺たちをそこから移動させた。


で、部屋に入るとそこにはケーキや飲み物が準備され、今度は俺が呆れる顔をする。



「どうせ、祝ってやらないと帰らないんだ。しばらく帰れないだろうから、優しくしてやろうじゃないか。」



_口の減らない妖怪め…



口に出さず悪態をつく俺に構わず、タマは堂々と俺に難癖をついてくる。


避妊すら出来ないくせに手を出す馬鹿だとか、


しつこく追い回したくせにあっさり忘れてしまうとか、


全て牧野に対して負い目のある事だけに、青筋すら立てられず俺は顔の筋肉が勝手に動かぬよう必死に耐えていた。



「ぷっ。あはははは!」



牧野が声を出して笑うと、俺に向かって顔面白すぎると言い、それからタマに代弁者してくれてありがとうと告げた。


そしてキョトンとしていたつつじも一緒になって笑い、場は一気に明るさを取り戻す。


そこで俺はやっとタマの意図を理解し、妖怪には敵わないと内心で白旗を上げたのだった。



小一時間ほど無理やりケーキを腹に押し込みながら、つつじのピアノの話を聞いていると、ドアがノックされ時間切れを告げられる。




_後ろ髪引かれる想いだった。



だが愚図る事はしたくなかった。

そんな姿はつつじには見せちゃいけねぇって思った。


これが親の感情かと思った。


_これほど足取りが重くなるのかとも。




エントランスで二人の方を向く。



つつじに声をかけ、また頭を撫でた。


そして、



「行ってくる。」



謝らなければならないと思っていたが、それしか言えなかった。



だが牧野は笑って答えた。



「ん。待っててあげる。しょーがないからね。」

「しょーがないからかよ。」

「だってそうでしょ。地獄の果てまでって言われたし。」

「言ったな。」

「逃げるのも体力要るのよね。」

「…ありそうに見えるぜ?」



すると牧野は目を丸くし、「べーっだ!」とぎゅっと目を閉じ大きく舌を出した。



すげえ可愛い。


キスしてえ。


抱きしめてえ。



だが、、




俺はリムジンに乗り込み、窓を開けた。



「つつじ、ママみてぇにべーってするんじゃねーぞ。」

「はっ?」

「???」


つつじは俺らを見て首を傾げている。


「パパはつつじにべーってされると悲しくなる。だからお前はやらないでくれ。」

「うん、分かった。じゃ、ママもやっちゃ駄目だよ。パパ可哀想だもの。」

「なっ… あんたねぇ。」


牧野は口元をひくひくさせた。



「ママ!」

「わ、分かったわよ。もうやらないから。」

「ん。パパ、ママやらないって。」

「おう。つつじサンキューな。良い子にしてるんだぞ。」

「うん。だいじょーぶだよ。」



そしてリムジンは走り出した。


窓から二人を見続けていると、牧野が俺に歯を向けてくる。


だがつつじにバレ、あたふたしていた。




そのうち二人の姿も見えなくなった。


また当分ひとりかと、孤独に打ちひしがれそうになる。


だが目を瞑ると、ピアノのメロディがリフレインする。


途切れ途切れの下手くそなメロディ。


だが世界で一番愛あるメロディだ。


そのメロディで俺はまた走り続けられる。



二人と手を繋ぐために。






【完】



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とりあえずside司完結です。
司birthdayなので、司目線で通しました。
lemmmon初の記憶喪失ものです。
前編を書いた時、こりゃありきたりになりそうだと思ったのですが、なんとか私っぽくはなりましたかね?
そしてタイトルからネタが分かっちゃった人も多かったかもしれません。
それでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
これからsideつくしも執筆してみようと思います。
でも昼0時はきっとない。
のんびりと期待せずにいてくんなまし。
では~
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dot 2018.01.31 23:32 | 編集
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dot 2018.02.01 22:19 | 編集
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