「すみません。今日はあたしの予約のお客様もおりませんし、急なのですがお休みを頂けないでしょうか?」
つくしは朝から休みを取って布の問屋街を歩きまわっていた。
目当ての布地を探していたのだ。
ただでさえ変わった色だ。その上上質な布地なのは譲れない。
一軒の店でさえ膨大な在庫の布地の中から(なにせ問屋街)、目当ての布地を探していた。
「ふう。」
お昼近くになり適当に定食屋で済ませて一息をつく。
「やっぱないのかなぁ?布地もオーダーすればあるだろうけど、そんな時間無いし探すしかないよねぇ。」
昨日絵深と話していて突然思いついたことだけに、行き当たりばったり感は否めない。無理なのかなと弱気になったりもする。しかし、
「いや、まだ時間はある。とりあえず今日1日休みを取ったんだから諦めちゃダメよ。恋せよ乙女だ!」
なんのこっちゃと思わんこともある。しかし今のつくしを動かしているのはまさに恋する乙女パワーだ。相手が既婚者だなんて考えない。ただ、彼が好きなのだ。自分の想いをチョコに込めるように作りたい。そのための材料を探している。ただそれだけだった。
***
「珍しいですね。牧野さんが休むなんて。」
「何かあったのかなぁ?」
つくしの急な休みを同僚達は口にする。つくしはみんなに好かれているのだ。
そんな中、朝のミーティングが始まる。業務の報告などが済んだ後オーナーの菜々子が口を開いた。
「今日はつくしちゃんが休みなので、この機会にみんなに知らせたいことがあるの。」
つくしの不在の連絡とあって皆に緊張が走る。
「去年から皆の意見を聞いてそして動いてきたんだけど、この店を売り渡すことは止めることにしたわ。」
とたんに騒つく。しかしそこには安堵の色もあった。
「大丈夫なんですか?」
主任の桜庭が声をかける。
「ええ。昨日絵深が来たでしょう。娘に店を続けて欲しいって言われちゃってね。娘に言われたら奮起しないわけにはいかないわ。」
「でも、オーナー自身が負担に感じてるって、、」
そう心配の声をあげるのは司の最初の採寸に立ち会った荒井だ。
「その懸念はあるわ。私の力不足は否めない。父の代に比べて売り上げは落ち込んでいるのも事実よ。社会背景もあるでしょうけど、それでもね。」
「道明寺サイドには話したのですか?」
緒方が懸念はまだあると口を挟む。
「いえ、まだよ。こちらから申し出ていて見苦しいのだけど、話さなきゃね。納得されないかもしれない。離れていくかもしれないわね。圧力がかかることも予想してる。」
「圧力なんてかけませんよ。牧野の男だし。」
そう言うのはつくしをからかう広沢だ。
「広沢、口を慎め。」
桜庭が注意する。
「すんません。」
「言いたいことは分かるわ。でも確かに言ってはダメね。そうね私も道明寺サイドから圧力はかからないと思う。元々彼らにメリットは無いに等しいし、彼が話を聞いたのはつくしちゃんがいたからこそよ。話が無くなったと謝るだけで解決すると思うわ。」
それには皆が一様に頷く。
司は有名人だ。いくら岩元と名乗ろうと、SPを従え客の少ない時間帯に来店する様子に、つくしとの関係も伺い知れた。
オーナーの菜々子が店を手放そうと考えた時、つくし以外の従業員から意見を募った。他の店舗に移るも良しと菜々子が考える中、従業員の全員がこの環境を守りたいとのことだった。だから強い資金力のある司に打診すると結論付いたのだ。だが、ひと月経つ今も司からの返事はない。
「忙しくて忘れてくれりゃあな。」
広沢が呟く。
「案外あるかもな。」
緒方も相槌を打つ。
「いえ、ちゃんと考えていると思うわ。話をした時の彼は痛ましい表情を見せた。つくしちゃんのことを考えているのはすぐ分かった。彼女がうちのお店を大切にしてくれているのも知ってるもの。返事がないのは理由があるんでしょう。」
「どうするんですか?」
桜庭が聞く。
「岩元様に連絡を取ります。ここは正直に話すことにするわ。お騒がせしたんですものきちんと頭を下げてくるつもりよ。」
***
「ダメだ見つからない。色では見つかるんだけどな。」
色は良くても素材がやや硬い。これでも作れるだろうが、つくしには納得いかなかった。
「この色良いんだけどなぁ。もうちょっと柔らかくて、あともう少し薄くないかなぁ?」
店の人に聞いてはいないが、おそらくその材質のものしかないんだろう。
つくしが求める色はもともとこの用途に使われない。だからあったとしても特注なのだろう。
「この材質だとハンカチかな。でもそれだとすぐ出来ちゃう。それでもいいかな。」
だがハンカチでは納得出来ないつくし。すぐに仕上がりなんだか自分のオリジナルが出ない気がしたのだ。
むぅ~~と店の外に目を向けた。それは他の店に行くかと考えたからだが、そこでサラリーマンが通り過ぎたのが見えた。
とたんに閃く。
「そうだよ。そうしよう。それなら時間も掛からないし、普段の仕事でも使えるじゃん。」
早速その布地を購入する。
帰路に立つつくしの足取りは軽かった。
早く作らなきゃ。
今何時かな?もうすぐ3時か。
ここからだとお店に着くのは5時になっちゃう。でも、この勢いを止めたくない。
つくしは休みを取ったにもかかわらず店へと向かった。
***
「あら、つくしちゃんどうしたの?」
「すみません。ちょっと自室使って良いですか?」
「ええ。あなたの部屋だしね。」
ありがとうございますと勢い良く飛び出すつくし。
「良い顔ね。どんな良いことがあったのかしら?」
「こっちの気も知らないで。」
そう言うが広沢の表情も柔らかい。
「それでいいのよ。今はね。」
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つくしが何を作ろうとしているのか分かるかな〜?
簡単ってか☆
つくしは朝から休みを取って布の問屋街を歩きまわっていた。
目当ての布地を探していたのだ。
ただでさえ変わった色だ。その上上質な布地なのは譲れない。
一軒の店でさえ膨大な在庫の布地の中から(なにせ問屋街)、目当ての布地を探していた。
「ふう。」
お昼近くになり適当に定食屋で済ませて一息をつく。
「やっぱないのかなぁ?布地もオーダーすればあるだろうけど、そんな時間無いし探すしかないよねぇ。」
昨日絵深と話していて突然思いついたことだけに、行き当たりばったり感は否めない。無理なのかなと弱気になったりもする。しかし、
「いや、まだ時間はある。とりあえず今日1日休みを取ったんだから諦めちゃダメよ。恋せよ乙女だ!」
なんのこっちゃと思わんこともある。しかし今のつくしを動かしているのはまさに恋する乙女パワーだ。相手が既婚者だなんて考えない。ただ、彼が好きなのだ。自分の想いをチョコに込めるように作りたい。そのための材料を探している。ただそれだけだった。
***
「珍しいですね。牧野さんが休むなんて。」
「何かあったのかなぁ?」
つくしの急な休みを同僚達は口にする。つくしはみんなに好かれているのだ。
そんな中、朝のミーティングが始まる。業務の報告などが済んだ後オーナーの菜々子が口を開いた。
「今日はつくしちゃんが休みなので、この機会にみんなに知らせたいことがあるの。」
つくしの不在の連絡とあって皆に緊張が走る。
「去年から皆の意見を聞いてそして動いてきたんだけど、この店を売り渡すことは止めることにしたわ。」
とたんに騒つく。しかしそこには安堵の色もあった。
「大丈夫なんですか?」
主任の桜庭が声をかける。
「ええ。昨日絵深が来たでしょう。娘に店を続けて欲しいって言われちゃってね。娘に言われたら奮起しないわけにはいかないわ。」
「でも、オーナー自身が負担に感じてるって、、」
そう心配の声をあげるのは司の最初の採寸に立ち会った荒井だ。
「その懸念はあるわ。私の力不足は否めない。父の代に比べて売り上げは落ち込んでいるのも事実よ。社会背景もあるでしょうけど、それでもね。」
「道明寺サイドには話したのですか?」
緒方が懸念はまだあると口を挟む。
「いえ、まだよ。こちらから申し出ていて見苦しいのだけど、話さなきゃね。納得されないかもしれない。離れていくかもしれないわね。圧力がかかることも予想してる。」
「圧力なんてかけませんよ。牧野の男だし。」
そう言うのはつくしをからかう広沢だ。
「広沢、口を慎め。」
桜庭が注意する。
「すんません。」
「言いたいことは分かるわ。でも確かに言ってはダメね。そうね私も道明寺サイドから圧力はかからないと思う。元々彼らにメリットは無いに等しいし、彼が話を聞いたのはつくしちゃんがいたからこそよ。話が無くなったと謝るだけで解決すると思うわ。」
それには皆が一様に頷く。
司は有名人だ。いくら岩元と名乗ろうと、SPを従え客の少ない時間帯に来店する様子に、つくしとの関係も伺い知れた。
オーナーの菜々子が店を手放そうと考えた時、つくし以外の従業員から意見を募った。他の店舗に移るも良しと菜々子が考える中、従業員の全員がこの環境を守りたいとのことだった。だから強い資金力のある司に打診すると結論付いたのだ。だが、ひと月経つ今も司からの返事はない。
「忙しくて忘れてくれりゃあな。」
広沢が呟く。
「案外あるかもな。」
緒方も相槌を打つ。
「いえ、ちゃんと考えていると思うわ。話をした時の彼は痛ましい表情を見せた。つくしちゃんのことを考えているのはすぐ分かった。彼女がうちのお店を大切にしてくれているのも知ってるもの。返事がないのは理由があるんでしょう。」
「どうするんですか?」
桜庭が聞く。
「岩元様に連絡を取ります。ここは正直に話すことにするわ。お騒がせしたんですものきちんと頭を下げてくるつもりよ。」
***
「ダメだ見つからない。色では見つかるんだけどな。」
色は良くても素材がやや硬い。これでも作れるだろうが、つくしには納得いかなかった。
「この色良いんだけどなぁ。もうちょっと柔らかくて、あともう少し薄くないかなぁ?」
店の人に聞いてはいないが、おそらくその材質のものしかないんだろう。
つくしが求める色はもともとこの用途に使われない。だからあったとしても特注なのだろう。
「この材質だとハンカチかな。でもそれだとすぐ出来ちゃう。それでもいいかな。」
だがハンカチでは納得出来ないつくし。すぐに仕上がりなんだか自分のオリジナルが出ない気がしたのだ。
むぅ~~と店の外に目を向けた。それは他の店に行くかと考えたからだが、そこでサラリーマンが通り過ぎたのが見えた。
とたんに閃く。
「そうだよ。そうしよう。それなら時間も掛からないし、普段の仕事でも使えるじゃん。」
早速その布地を購入する。
帰路に立つつくしの足取りは軽かった。
早く作らなきゃ。
今何時かな?もうすぐ3時か。
ここからだとお店に着くのは5時になっちゃう。でも、この勢いを止めたくない。
つくしは休みを取ったにもかかわらず店へと向かった。
***
「あら、つくしちゃんどうしたの?」
「すみません。ちょっと自室使って良いですか?」
「ええ。あなたの部屋だしね。」
ありがとうございますと勢い良く飛び出すつくし。
「良い顔ね。どんな良いことがあったのかしら?」
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