6畳の居間にある小さなローテーブルを挟んで対面で座るつくしと司。
昨夜飲んだ秘書課のメンバーから来たLINEはとても信じられたものではなかった。
副社長の第一秘書の中山が昨夜の事を聞いてきたと言うのは分かる。
だが、副社長がアクションを起こしたりしてと言った事には何を言っているんだとスマホを放り投げたものだ。
しかしその後受付課の後輩から来たLINEにはかなり焦らされた。
副社長の外出動向を知る彼女達が予定にない外出だと言うのだからそれはかなり真実味を帯びる。
そして本当に訪問して来た副社長。
事前連絡などなかったものだから、半信半疑でキョドッていたつくしは訪問を知らせるベルの音にパニックになったのは言うまでもない。
だがそんな状態でも居留守など使わないつくしは、泣きそうになりながらも司を部屋へと招き入れた。
そしてテーブルを挟んでの沈黙。
つくしは何て言えば良いのか分からなかった。
そんなつくしを見て司も言葉を選びきれずにいた。
沈黙は5分程続いただろうか、流石にしびれを切らして司が声をかける。
「体調は大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です。その、、申し上げにくいのですが、ただの二日酔いですので、、」
「酒は弱いのに飛ばしたらしいな。あんまり無茶はするな。心配するからよ。」
「は、、い。」
「何かあったのか?」
「へ?」
「無茶する程飲んだんだろ?理由があったからじゃないのか?」
「~~~~、、」
その司の問いかけには答えられずにいるつくし。
副社長が自分に好意を持っていると聞いたからと、当の本人を目の前にして答えられる訳がない。
「すまん。意地が悪い言い方だったな。」
「え、、」
「俺の事を聞いたからだろ?昨夜一緒だったメンバーから中山が聞いている。」
「~~~~~~」
「それでお前はどうなんだ?」
「ど、どうって、、」
「お前は俺の事をどう思っているんだ?」
「え、えっと、、」
「はっきり聞かせて欲しい。俺は真剣にお前の事を想っている。だからお前からも同じ様に想われていたい。」
その時つくしは司の姿勢に気付いた。
ピンと背筋を伸ばして座っている。
普段の優雅な姿ではない。
何かに必死なその姿勢は、まるで目上の者に頼み込む様な態度だ。
まるで武士が将軍に接見する様な態度に、つくしは司の真剣な想いを感じた。
「あた、、私は副社長を、、尊敬しています。副社長の仕事に取り組む姿勢は素晴らしく、部下として誇りでした。」
「でした?過去形か?」
「い、いえ。誇りです。現在形です。」
つくしが訂正した事で、ホッとする様子を見せる司。
つくしはその様子に、案外普通の人なのかと思った。
そして普通って何?と自分自身に問いかける。
人を噂など周りからの雑音で判断しない様にしていたつもりだったが、司に対してはいつの間にかそんな対応になっていた事に気付く。
自分の目で耳で見た事聞いた事感じた事で判断するんじゃないの?と自分自身を叱咤する。
そして司が何よりそんな事を嫌っている事に改めて意識した。
「副社長の真剣な想いとは何ですか?私とどうなりたいんですか?」
「どう?」
「はい。お付き合いしたいんですか?」
「いや。付き合いたいとは思わない。」
「それじゃあ、、」
「結婚したいと思っている。お前には俺の伴侶になって欲しい。」
「え、、結婚?、、伴侶って、、」
「駄目か?」
「駄目、、というか、、いきなり過ぎます。」
「そうか。しかし俺には付き合いという曖昧な関係は我慢ならねぇ。お前を見つけてからはお前ばっかり見ちまってんだ。女に全く興味すら持たなかったこの俺がな。」
「・・・・・」
「するとお前は付き合わねぇと結婚も出来ねぇって奴なのか?」
「え、、あ、いや、、」
「付き合うと言うが、男と女が付き合うっつー事はよ。肉体関係も当然有りだ。恋人っつー曖昧な関係で、俺は手出ししたくねぇ。俺の立場上の都合もあるが、俺はお前が俺をパートナーと認めたら他の男には近付けさせたくねぇんだ。それには婚姻関係を持つのが一番だろ?」
「他の男って、、あたしはそんなにモテませんよ。」
「あ、モテないだぁ?お前分かってねぇな。モテるモテないは関係ねぇんだよ。俺がお前を独占してぇんだ。そうだと思っていたが、本当にお前男心を分かってねぇな。」
「ムッ。それじゃあ副社長は女心を理解しているんですか?」
「してる訳ねぇだろ。女に興味無かったんだから。」
「それじゃああたしに分かって無いって言う資格無いですよね。批判しないで下さい。」
「そうだな。」
ムッとしているつくしをよそに、司は冷静な態度だ。
その冷静さにつくしはドギマギしてしまう。
「らしくなってきたな。それでこそおめぇだぜ。」
そこで司の意図を理解した。硬くなっている自分を解そうとしたのだと。
だが、硬さは解れたが別の問題がつくしには発生していた。
「で、俺と結婚するか?つうか断る理由なんて無いだろ?」
「嫌です。」
つい勢いで答えてしまった。司の言い方が気にいらなかったのだ。
「あ、何でだよ。付き合ってねぇからか?付き合うとか煩わしいだろうが。」
「何で煩わしいんですか?結婚しようそうしようって、すぐに考えられる訳ないでしょう。あたしの気持ちは無視ですか?副社長は自分勝手過ぎます。」
「しょうがねぇだろ?俺は忙しいからよ。結婚でもしてなきゃ、おめぇといられるのは仕事中だけだ。それも執務室にいる時だけで、、けどよ、結婚してりゃ家でも会えるだろ?」
「あ、、そう、ですね。」
「だろ?」
「はい。」
言い方に不満を感じてしまったが、納得できる理由を述べられつくしはトーンダウンしてしまった。
「じゃ、結婚しようぜ。」
とはいえ、そうそう答えなど出せない。
「・・・時間を下さい。」
「時間?5分でいいか?」
「短っ。たった5分ですか?こういう事はもっと考えさせて下さいよ。」
つくしはなんて気が短いと思ってしまい、力が抜けてしまった。
「俺は直感型だからな。時間をかけるのは意味がねぇと思っている。」
「それってビジネスですよね。今はプライベートの事を話してるんですよ。それも人生を左右するような事を。」
「ビジネスだって、人生を左右させるぜ。俺が判断を誤れば多くの人間を路頭に迷わせちまう。何ら変わりないだろうが。」
「それはそうですが、、」
「おめぇ、意外と意気地が無いんだな。」
「は?意気地?」
「もっと骨があると思っていたぜ。」
「ありますよ。何言ってるんですか?」
「じゃあ、腹をくくれよ。俺に付いて来いって前も言っただろ?そん時どう思ったか知らねぇが、あれと一緒だせ?ビジネスでもプライベートでも俺と一緒にいるっつー事はよ。」
「そんな、、」
「違わねぇか?」
問われる様な言い方につくしも考えさせられる。
確かにそう考えると、、
「違わなくありません。そうだと思います。」
「だろ?それじゃあ、5分だったな。待つから考えろ。」
そういって少し姿勢を崩す司。
腕を組みつくしを優しく見つめている。
一応待ってくれるんだと思いつつも、見られた中で考えられる訳ないとつくしは困ってしまった。
だいたい自分と付き合う事で何と言われるのか分かってるんだろうかと考えてしまう。
悪趣味とか言われるに決まってると思いつつも、それでも構わない人も現れるはずと思ってしまった。
そう考えるとどんな人でも司と付き合えば、その人への嫉妬は尽きないのではないだろうか。
嫉妬されない方が良いに決まっているが、そんな人なんているんだろうか?
幸せであればあるほど、嫉妬の対象にはなる。それが人のサガと言うヤツだ。
ならば司が言うように自分の心に素直な事で良いんじゃないかと思う。
他人の意見に振り回される事が自分の意志とかけ離れる事になってはならない。つくしはそう思えた。
ならば司の想いを受け止める事は、どうなんだろう?
自分は恋愛感情など持っていない。
あるとすれば尊敬の念だけ。
尊敬する人を愛する事が出来れば、それは素晴らしい気がすると、つくしは思った。
「愛せるかな、、」
「愛せるさ。俺が愛するんだから、お前も俺を愛する様になる。」
「随分と自信たっぷりですね。まぁ、副社長らしいっちゃ、らしいですけど。」
「あ、俺らしい?何だお前も俺の事見てたんか。」
「まぁ、上司ですから。見てますよ。」
「これからは夫として見ろよ。そして他の男を見るな。お前にとって男は俺だけだ。」
「見るなって、、視界に入るのはどうするんですか?」
「視界から消せ!」
「そんな無茶な、、」
「俺はお前以外の女は見えねぇ。気持ち悪いしな。」
「気持ち、、酷くありません?」
「露骨に見られるんだぞ?お前はそんな風に見られて良い気分になるか?」
「・・なら、ない、、です。」
「だろ?あ、でもお前はそんな目で見ろよ。」
「へ?」
「お前ならいつでもOKだ。」
「何が?」
「肉体関係だ。」
「へ?」
そしてつくしは今密室に二人っきりという状況に気付く。
腕を胸の前でクロスさせ、身を縮こませる。
ぶるぶると震え、うっすら目に涙を溜めてしまった。
「まぁ、そこは急ぐつもりはねぇよ。嫌がるのを無理矢理っつー趣味はねぇ。」
流石に自分の言葉が直球過ぎて警戒された事に不味かったと思う司。
だが、それに傷付きもしており表情を曇らせる。
そんな司につくしも、過剰反応し過ぎたと反省する。
「あ、あの、、それなら、良いです。」
「良い?」
「はい。その待ってくれるなら、良い、、です。副社長の申し出を、受け、、ます。」
「本当か?」
「え、あ、はい。」
「よっしゃああーーー」
突然立ち上がり叫び出す司。
つくしはビクッとしたが、そのあまりの喜び様に頬を緩ませてしまう。
真っ直ぐで余計な形容詞を付けない人。
子どもみたいなのに、とっても魅力ある人。
今はまだ気持ちには大きな差があるけど、追いついていけたら良いなとつくしは思ってしまった。
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昨夜飲んだ秘書課のメンバーから来たLINEはとても信じられたものではなかった。
副社長の第一秘書の中山が昨夜の事を聞いてきたと言うのは分かる。
だが、副社長がアクションを起こしたりしてと言った事には何を言っているんだとスマホを放り投げたものだ。
しかしその後受付課の後輩から来たLINEにはかなり焦らされた。
副社長の外出動向を知る彼女達が予定にない外出だと言うのだからそれはかなり真実味を帯びる。
そして本当に訪問して来た副社長。
事前連絡などなかったものだから、半信半疑でキョドッていたつくしは訪問を知らせるベルの音にパニックになったのは言うまでもない。
だがそんな状態でも居留守など使わないつくしは、泣きそうになりながらも司を部屋へと招き入れた。
そしてテーブルを挟んでの沈黙。
つくしは何て言えば良いのか分からなかった。
そんなつくしを見て司も言葉を選びきれずにいた。
沈黙は5分程続いただろうか、流石にしびれを切らして司が声をかける。
「体調は大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です。その、、申し上げにくいのですが、ただの二日酔いですので、、」
「酒は弱いのに飛ばしたらしいな。あんまり無茶はするな。心配するからよ。」
「は、、い。」
「何かあったのか?」
「へ?」
「無茶する程飲んだんだろ?理由があったからじゃないのか?」
「~~~~、、」
その司の問いかけには答えられずにいるつくし。
副社長が自分に好意を持っていると聞いたからと、当の本人を目の前にして答えられる訳がない。
「すまん。意地が悪い言い方だったな。」
「え、、」
「俺の事を聞いたからだろ?昨夜一緒だったメンバーから中山が聞いている。」
「~~~~~~」
「それでお前はどうなんだ?」
「ど、どうって、、」
「お前は俺の事をどう思っているんだ?」
「え、えっと、、」
「はっきり聞かせて欲しい。俺は真剣にお前の事を想っている。だからお前からも同じ様に想われていたい。」
その時つくしは司の姿勢に気付いた。
ピンと背筋を伸ばして座っている。
普段の優雅な姿ではない。
何かに必死なその姿勢は、まるで目上の者に頼み込む様な態度だ。
まるで武士が将軍に接見する様な態度に、つくしは司の真剣な想いを感じた。
「あた、、私は副社長を、、尊敬しています。副社長の仕事に取り組む姿勢は素晴らしく、部下として誇りでした。」
「でした?過去形か?」
「い、いえ。誇りです。現在形です。」
つくしが訂正した事で、ホッとする様子を見せる司。
つくしはその様子に、案外普通の人なのかと思った。
そして普通って何?と自分自身に問いかける。
人を噂など周りからの雑音で判断しない様にしていたつもりだったが、司に対してはいつの間にかそんな対応になっていた事に気付く。
自分の目で耳で見た事聞いた事感じた事で判断するんじゃないの?と自分自身を叱咤する。
そして司が何よりそんな事を嫌っている事に改めて意識した。
「副社長の真剣な想いとは何ですか?私とどうなりたいんですか?」
「どう?」
「はい。お付き合いしたいんですか?」
「いや。付き合いたいとは思わない。」
「それじゃあ、、」
「結婚したいと思っている。お前には俺の伴侶になって欲しい。」
「え、、結婚?、、伴侶って、、」
「駄目か?」
「駄目、、というか、、いきなり過ぎます。」
「そうか。しかし俺には付き合いという曖昧な関係は我慢ならねぇ。お前を見つけてからはお前ばっかり見ちまってんだ。女に全く興味すら持たなかったこの俺がな。」
「・・・・・」
「するとお前は付き合わねぇと結婚も出来ねぇって奴なのか?」
「え、、あ、いや、、」
「付き合うと言うが、男と女が付き合うっつー事はよ。肉体関係も当然有りだ。恋人っつー曖昧な関係で、俺は手出ししたくねぇ。俺の立場上の都合もあるが、俺はお前が俺をパートナーと認めたら他の男には近付けさせたくねぇんだ。それには婚姻関係を持つのが一番だろ?」
「他の男って、、あたしはそんなにモテませんよ。」
「あ、モテないだぁ?お前分かってねぇな。モテるモテないは関係ねぇんだよ。俺がお前を独占してぇんだ。そうだと思っていたが、本当にお前男心を分かってねぇな。」
「ムッ。それじゃあ副社長は女心を理解しているんですか?」
「してる訳ねぇだろ。女に興味無かったんだから。」
「それじゃああたしに分かって無いって言う資格無いですよね。批判しないで下さい。」
「そうだな。」
ムッとしているつくしをよそに、司は冷静な態度だ。
その冷静さにつくしはドギマギしてしまう。
「らしくなってきたな。それでこそおめぇだぜ。」
そこで司の意図を理解した。硬くなっている自分を解そうとしたのだと。
だが、硬さは解れたが別の問題がつくしには発生していた。
「で、俺と結婚するか?つうか断る理由なんて無いだろ?」
「嫌です。」
つい勢いで答えてしまった。司の言い方が気にいらなかったのだ。
「あ、何でだよ。付き合ってねぇからか?付き合うとか煩わしいだろうが。」
「何で煩わしいんですか?結婚しようそうしようって、すぐに考えられる訳ないでしょう。あたしの気持ちは無視ですか?副社長は自分勝手過ぎます。」
「しょうがねぇだろ?俺は忙しいからよ。結婚でもしてなきゃ、おめぇといられるのは仕事中だけだ。それも執務室にいる時だけで、、けどよ、結婚してりゃ家でも会えるだろ?」
「あ、、そう、ですね。」
「だろ?」
「はい。」
言い方に不満を感じてしまったが、納得できる理由を述べられつくしはトーンダウンしてしまった。
「じゃ、結婚しようぜ。」
とはいえ、そうそう答えなど出せない。
「・・・時間を下さい。」
「時間?5分でいいか?」
「短っ。たった5分ですか?こういう事はもっと考えさせて下さいよ。」
つくしはなんて気が短いと思ってしまい、力が抜けてしまった。
「俺は直感型だからな。時間をかけるのは意味がねぇと思っている。」
「それってビジネスですよね。今はプライベートの事を話してるんですよ。それも人生を左右するような事を。」
「ビジネスだって、人生を左右させるぜ。俺が判断を誤れば多くの人間を路頭に迷わせちまう。何ら変わりないだろうが。」
「それはそうですが、、」
「おめぇ、意外と意気地が無いんだな。」
「は?意気地?」
「もっと骨があると思っていたぜ。」
「ありますよ。何言ってるんですか?」
「じゃあ、腹をくくれよ。俺に付いて来いって前も言っただろ?そん時どう思ったか知らねぇが、あれと一緒だせ?ビジネスでもプライベートでも俺と一緒にいるっつー事はよ。」
「そんな、、」
「違わねぇか?」
問われる様な言い方につくしも考えさせられる。
確かにそう考えると、、
「違わなくありません。そうだと思います。」
「だろ?それじゃあ、5分だったな。待つから考えろ。」
そういって少し姿勢を崩す司。
腕を組みつくしを優しく見つめている。
一応待ってくれるんだと思いつつも、見られた中で考えられる訳ないとつくしは困ってしまった。
だいたい自分と付き合う事で何と言われるのか分かってるんだろうかと考えてしまう。
悪趣味とか言われるに決まってると思いつつも、それでも構わない人も現れるはずと思ってしまった。
そう考えるとどんな人でも司と付き合えば、その人への嫉妬は尽きないのではないだろうか。
嫉妬されない方が良いに決まっているが、そんな人なんているんだろうか?
幸せであればあるほど、嫉妬の対象にはなる。それが人のサガと言うヤツだ。
ならば司が言うように自分の心に素直な事で良いんじゃないかと思う。
他人の意見に振り回される事が自分の意志とかけ離れる事になってはならない。つくしはそう思えた。
ならば司の想いを受け止める事は、どうなんだろう?
自分は恋愛感情など持っていない。
あるとすれば尊敬の念だけ。
尊敬する人を愛する事が出来れば、それは素晴らしい気がすると、つくしは思った。
「愛せるかな、、」
「愛せるさ。俺が愛するんだから、お前も俺を愛する様になる。」
「随分と自信たっぷりですね。まぁ、副社長らしいっちゃ、らしいですけど。」
「あ、俺らしい?何だお前も俺の事見てたんか。」
「まぁ、上司ですから。見てますよ。」
「これからは夫として見ろよ。そして他の男を見るな。お前にとって男は俺だけだ。」
「見るなって、、視界に入るのはどうするんですか?」
「視界から消せ!」
「そんな無茶な、、」
「俺はお前以外の女は見えねぇ。気持ち悪いしな。」
「気持ち、、酷くありません?」
「露骨に見られるんだぞ?お前はそんな風に見られて良い気分になるか?」
「・・なら、ない、、です。」
「だろ?あ、でもお前はそんな目で見ろよ。」
「へ?」
「お前ならいつでもOKだ。」
「何が?」
「肉体関係だ。」
「へ?」
そしてつくしは今密室に二人っきりという状況に気付く。
腕を胸の前でクロスさせ、身を縮こませる。
ぶるぶると震え、うっすら目に涙を溜めてしまった。
「まぁ、そこは急ぐつもりはねぇよ。嫌がるのを無理矢理っつー趣味はねぇ。」
流石に自分の言葉が直球過ぎて警戒された事に不味かったと思う司。
だが、それに傷付きもしており表情を曇らせる。
そんな司につくしも、過剰反応し過ぎたと反省する。
「あ、あの、、それなら、良いです。」
「良い?」
「はい。その待ってくれるなら、良い、、です。副社長の申し出を、受け、、ます。」
「本当か?」
「え、あ、はい。」
「よっしゃああーーー」
突然立ち上がり叫び出す司。
つくしはビクッとしたが、そのあまりの喜び様に頬を緩ませてしまう。
真っ直ぐで余計な形容詞を付けない人。
子どもみたいなのに、とっても魅力ある人。
今はまだ気持ちには大きな差があるけど、追いついていけたら良いなとつくしは思ってしまった。
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つくしが秘書課に移動して自分のチームに来てから司は絶好調だった。
やや下降ぎみだったプロジェクトも強気の姿勢で盛り返し、纏まった時には司の独壇場だった。
それは正につくしの存在があってこそ。
執務室を出る際には笑顔で見送られ、執務室へと帰って来れば笑顔で出迎えられる。
つくしに背中を見せる事を意識し、帰って来る時には成果を必ず携えたかった。
たとえ二人の仲が進展しなくても、つくしから向けられる視線からは尊敬の念が伺え、闘う今の自分にはこれで良いと納得出来る事だった。
そんなプロジェクトが落ち着いた日につくしが休みを取った。
「ただの休みじゃないのか?」
そう聞くのは秘書の態度だ。
いつもなら出勤して来た司を出迎えるはずのつくしが定位置のデスクに居ないのだ。
それだけで司のテンションは30は下がる。
30とは100のうちの30だからかなりの下げ幅だ。
居ないとなれば、席を離れているだけの場合もある。
が、秘書はそうではないとの反応をした。それも微妙な間合いを含めて。執務室に視線を向け、司の足を止めさせなかった。
「体調が悪いために休みを取っているのは間違いないですが、昨晩色々あったようです。」
「何?!・・どういう事だ?」
そこで秘書はつくしを含めた他チームの秘書課女子5人が昨日着飾って退社した目撃を伝えた。
その姿はいかにもこれから飲み会へと向かいます。それも異性を交えたという気合いの入れようだったそうだ。
それを聞いた司の目が座っていく。額に青筋は立ってないが、かなりの極悪顔だ。
想定内の反応であったため、秘書は話を続けて行く。つくしと行動を共にしたメンバーを呼び出し、詳しく話を聞き出したと。
それに眉根を寄せ、少し顔を上げた司。話を続けろと合図を送る。
それによりメンバーが着飾った理由が明らかにされ、司もそれに一応の納得をする。
女なりの返り討ちに不満は無いが、海の処遇については物足りなさを感じた。
「それで女どもと飲み過ぎたって訳か。あいつ酒は強くないんだったな。」
「ええ、それもありますが、それだけでは無いようです。」
「他にも何が?」
「副社長との事を冷やかされたようです。」
「俺との事?」
「ええ。酒の勢いもあったのでしょうね。鈍い彼女の背中を押したようです。」
表情から力が抜ける司。鼻から下を手で覆い気まずさを、、、隠しているつもりらしい。
「どう言う事だ?」
「どうもこうも、副社長の態度はバレバレですから。秘書課に在籍する社員ならば気付いているでしょう。」
「バレバレ、、?」
「はい。気付いてないのは当人達だという事も承知していると思います。」
頭の後ろを掻き出した司。目が泳ぎ出し、秘書から視線を背けてしまった。
「そ、そうか。」
「はい。そのため彼女達もお二人の仲を進展させたかったのでしょう。」
「そうか。」
椅子を回転させ背中を向けてしまった司。
おそらく顔を見せられたものでなかったからだろうが、すでに秘書は思いっきり目撃していた。
だが、ここで照れている場合ではない。秘書には気がかりがあった。
「なので今日牧野さんが休んだ事が気がかりであります。」
トーンを下げた秘書の物言いに司は素早く反応する。
「気がかり?」
「ええ。単に二日酔いで休んだのでなければ良いのですが、、」
「二日酔いだけじゃないって事か?」
「おそらく牧野さんも昨夜副社長の好意に気付いたはずでしょうから、彼女がどう思ったのか、、気になりませんか?」
「!!!!!!」
ガタッっと立ち上がり青ざめる司。
周りの反応どころではない事にようやく気付く。
当のつくしが自分の事を知ってどう思っているのか、それはずっと考えていた事であったがつくしが側にいる事でどこか安心しきっていた。
「な、、どうって、、俺を軽蔑するかもしれねぇって事か?」
「それは無いと、、分かりません。」
「どっちだ!」
「私は牧野さんではありませんので、お答え出来ません。」
「それもそうだな。お前が牧野の事を分かっていたらお前と親密な仲って事になる。」
ガシガシ頭を掻き出した司。目が血走り部屋の中をうろうろし出した。
こうなるのも想定内だ。
秘書は奥の一手を出す事にした。
「副社長これを。」
秘書が提示した一枚の写真に司は目を真開く。
それは昨晩のつくしの写真だった。
普段の薄化粧とは違い、知性を引き立たせる華やかな印象。
今までそんな女性を冷めた目で一瞥していた司。
だが、それには目を奪われた。
素に近いつくしも好みだった。
だがこんなつくしも悪くない。
いや、むしろ超どストライクだった。
司の中で雷に撃たれたような衝撃が走る。
それで目が覚めた。
「許せねぇ、、」
写真を持つ手がワナワナと震える。
「こんな姿見たら誰だって惚れるだろ、、」
「あなたが惚れた人ですからね。」
「そうだな。俺の女だ。」
「まだ違いますよ。」
「いずれそうなる。」
「では、はっきりさせませんと。あなたの真剣な想いを伝えればその気持ちを真摯に受け止める女性です。」
秘書を見る司。
その目は決意を剥き出しにしていた。
「出てくるぜ。・・捕まえてくる。」
「お昼には戻り下さい。午後の会議は週一の重役会議です。皆様を安心させて下さい。」
「皆様?」
「重役の方々もお二人を見守ってます。ですから、同時に秘書課への移動希望があったと聞いてます。」
「フッ、、マジか。そりゃ何よりだぜ。」
そう。司がつくしを移動させたのは女性重役達がつくしを自分の秘書にと同時に上げたからだった。
自分以外の秘書になど許せるはずもなかったが、重役が取り合った事でその身を自分が見極めるという理由を付けられた司。
それも秘書の助言(入れ知恵)だった。
「周りは固めてあるって事か。癪に触るが、乗ってやるぜ。」
「勿体無いお言葉でございます。」
「フッ、この点じゃお前が上だってか?」
「・・・花はやめた方が宜しいですよ。」
「あ?」
「名目はお見舞いでしょう。ならば本当に気分不良も充分ありえます。花の香りが体調を悪くしないとも限りません。」
「・・そうかよ。」
「シンプルに飲み物が良いかと。薬局で売ってる経口補水液はどうでしょう。」
「けいこ、、?」
「ミネラルウォーターで良いかと思います。」
「それならリムジンにあるな。」
そう言い残して執務室を出て行った司。
秘書を伴わず大きなスライドで会社内を闊歩する。
そんな司を目撃した社員は、昨日のつくしとの事で変化があると予測する。
それだけつくしの化粧には社内が騒めいたのだ。
司がつくしをどう思っているのか、秘書は秘書課はと限定した言い方だったが実際は社内の殆どの人間が知っていた。
それだけ司が注目されているという事だ。
そしてそんな司に見初められながらも全く媚びなく変わらないつくし、そんなつくしが合コンの出で立ちで退社したのだから動きがあって当然だ。
受付ではつくしの後輩達がカウンターの下でスマホを忙しなく動かしている。
それは時を戻した秘書課でも見られた事。
そのためつくしは休みを連絡した後だったにも関わらず、鏡の前に座り二日酔いの酷い顔をどうにかしようと四苦八苦していた。
寝起きのパジャマのままという事も、司の訪問を知らせるチャイムを聞いてから気付く有様で。
「本当に来ちゃったよぉ、、ど、どうすればいいの?」
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やや下降ぎみだったプロジェクトも強気の姿勢で盛り返し、纏まった時には司の独壇場だった。
それは正につくしの存在があってこそ。
執務室を出る際には笑顔で見送られ、執務室へと帰って来れば笑顔で出迎えられる。
つくしに背中を見せる事を意識し、帰って来る時には成果を必ず携えたかった。
たとえ二人の仲が進展しなくても、つくしから向けられる視線からは尊敬の念が伺え、闘う今の自分にはこれで良いと納得出来る事だった。
そんなプロジェクトが落ち着いた日につくしが休みを取った。
「ただの休みじゃないのか?」
そう聞くのは秘書の態度だ。
いつもなら出勤して来た司を出迎えるはずのつくしが定位置のデスクに居ないのだ。
それだけで司のテンションは30は下がる。
30とは100のうちの30だからかなりの下げ幅だ。
居ないとなれば、席を離れているだけの場合もある。
が、秘書はそうではないとの反応をした。それも微妙な間合いを含めて。執務室に視線を向け、司の足を止めさせなかった。
「体調が悪いために休みを取っているのは間違いないですが、昨晩色々あったようです。」
「何?!・・どういう事だ?」
そこで秘書はつくしを含めた他チームの秘書課女子5人が昨日着飾って退社した目撃を伝えた。
その姿はいかにもこれから飲み会へと向かいます。それも異性を交えたという気合いの入れようだったそうだ。
それを聞いた司の目が座っていく。額に青筋は立ってないが、かなりの極悪顔だ。
想定内の反応であったため、秘書は話を続けて行く。つくしと行動を共にしたメンバーを呼び出し、詳しく話を聞き出したと。
それに眉根を寄せ、少し顔を上げた司。話を続けろと合図を送る。
それによりメンバーが着飾った理由が明らかにされ、司もそれに一応の納得をする。
女なりの返り討ちに不満は無いが、海の処遇については物足りなさを感じた。
「それで女どもと飲み過ぎたって訳か。あいつ酒は強くないんだったな。」
「ええ、それもありますが、それだけでは無いようです。」
「他にも何が?」
「副社長との事を冷やかされたようです。」
「俺との事?」
「ええ。酒の勢いもあったのでしょうね。鈍い彼女の背中を押したようです。」
表情から力が抜ける司。鼻から下を手で覆い気まずさを、、、隠しているつもりらしい。
「どう言う事だ?」
「どうもこうも、副社長の態度はバレバレですから。秘書課に在籍する社員ならば気付いているでしょう。」
「バレバレ、、?」
「はい。気付いてないのは当人達だという事も承知していると思います。」
頭の後ろを掻き出した司。目が泳ぎ出し、秘書から視線を背けてしまった。
「そ、そうか。」
「はい。そのため彼女達もお二人の仲を進展させたかったのでしょう。」
「そうか。」
椅子を回転させ背中を向けてしまった司。
おそらく顔を見せられたものでなかったからだろうが、すでに秘書は思いっきり目撃していた。
だが、ここで照れている場合ではない。秘書には気がかりがあった。
「なので今日牧野さんが休んだ事が気がかりであります。」
トーンを下げた秘書の物言いに司は素早く反応する。
「気がかり?」
「ええ。単に二日酔いで休んだのでなければ良いのですが、、」
「二日酔いだけじゃないって事か?」
「おそらく牧野さんも昨夜副社長の好意に気付いたはずでしょうから、彼女がどう思ったのか、、気になりませんか?」
「!!!!!!」
ガタッっと立ち上がり青ざめる司。
周りの反応どころではない事にようやく気付く。
当のつくしが自分の事を知ってどう思っているのか、それはずっと考えていた事であったがつくしが側にいる事でどこか安心しきっていた。
「な、、どうって、、俺を軽蔑するかもしれねぇって事か?」
「それは無いと、、分かりません。」
「どっちだ!」
「私は牧野さんではありませんので、お答え出来ません。」
「それもそうだな。お前が牧野の事を分かっていたらお前と親密な仲って事になる。」
ガシガシ頭を掻き出した司。目が血走り部屋の中をうろうろし出した。
こうなるのも想定内だ。
秘書は奥の一手を出す事にした。
「副社長これを。」
秘書が提示した一枚の写真に司は目を真開く。
それは昨晩のつくしの写真だった。
普段の薄化粧とは違い、知性を引き立たせる華やかな印象。
今までそんな女性を冷めた目で一瞥していた司。
だが、それには目を奪われた。
素に近いつくしも好みだった。
だがこんなつくしも悪くない。
いや、むしろ超どストライクだった。
司の中で雷に撃たれたような衝撃が走る。
それで目が覚めた。
「許せねぇ、、」
写真を持つ手がワナワナと震える。
「こんな姿見たら誰だって惚れるだろ、、」
「あなたが惚れた人ですからね。」
「そうだな。俺の女だ。」
「まだ違いますよ。」
「いずれそうなる。」
「では、はっきりさせませんと。あなたの真剣な想いを伝えればその気持ちを真摯に受け止める女性です。」
秘書を見る司。
その目は決意を剥き出しにしていた。
「出てくるぜ。・・捕まえてくる。」
「お昼には戻り下さい。午後の会議は週一の重役会議です。皆様を安心させて下さい。」
「皆様?」
「重役の方々もお二人を見守ってます。ですから、同時に秘書課への移動希望があったと聞いてます。」
「フッ、、マジか。そりゃ何よりだぜ。」
そう。司がつくしを移動させたのは女性重役達がつくしを自分の秘書にと同時に上げたからだった。
自分以外の秘書になど許せるはずもなかったが、重役が取り合った事でその身を自分が見極めるという理由を付けられた司。
それも秘書の助言(入れ知恵)だった。
「周りは固めてあるって事か。癪に触るが、乗ってやるぜ。」
「勿体無いお言葉でございます。」
「フッ、この点じゃお前が上だってか?」
「・・・花はやめた方が宜しいですよ。」
「あ?」
「名目はお見舞いでしょう。ならば本当に気分不良も充分ありえます。花の香りが体調を悪くしないとも限りません。」
「・・そうかよ。」
「シンプルに飲み物が良いかと。薬局で売ってる経口補水液はどうでしょう。」
「けいこ、、?」
「ミネラルウォーターで良いかと思います。」
「それならリムジンにあるな。」
そう言い残して執務室を出て行った司。
秘書を伴わず大きなスライドで会社内を闊歩する。
そんな司を目撃した社員は、昨日のつくしとの事で変化があると予測する。
それだけつくしの化粧には社内が騒めいたのだ。
司がつくしをどう思っているのか、秘書は秘書課はと限定した言い方だったが実際は社内の殆どの人間が知っていた。
それだけ司が注目されているという事だ。
そしてそんな司に見初められながらも全く媚びなく変わらないつくし、そんなつくしが合コンの出で立ちで退社したのだから動きがあって当然だ。
受付ではつくしの後輩達がカウンターの下でスマホを忙しなく動かしている。
それは時を戻した秘書課でも見られた事。
そのためつくしは休みを連絡した後だったにも関わらず、鏡の前に座り二日酔いの酷い顔をどうにかしようと四苦八苦していた。
寝起きのパジャマのままという事も、司の訪問を知らせるチャイムを聞いてから気付く有様で。
「本当に来ちゃったよぉ、、ど、どうすればいいの?」
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< 辞令 >
以下の者を今日付けで移動とする。
牧野つくし
受付課 → 秘書課
あれから2週間後、
業務を始めたつくしの目に飛び込んできたのは、自分に対する辞令交付書だった。
いつもの様に総務で連絡事項をしようとすると、書類の一番上に置かれて渡されたのである。
事態を飲み込む間も無く引き継ぎを行い、最上階の秘書課へと向かう。
つくしは戸惑っていた。
なぜならこの時期の辞令など聞いた事がない。
おまけに内示すらなかったのだ。
秘書課という事はどのチームに行くのだろう?
副社長からの引き抜きの話はまだ返事をしていなかった。
ならば他のチームだってあり得る。
しかし、つくしは思った。
副社長に返事をしていないと思っていたが、相手は返事をしたものと思っていないだろうかと。
というのも、最近自分は副社長と良く話をするのだ。
話をするといってもすれ違いに立ち止まり一言二言言葉を交わすだけなのだが、副社長がそんな事をする社員は他にいない。そう後輩に指摘されてから、つくしは少し意識してしまったのだった。
自分は副社長に気に入られているのだろうか?
確かに自分は話しかけやすいタイプだとは思う。
それでいて意見もきちんと言える。
相手によって態度を変える事もしない。
(そんなのはやっちゃ駄目でしょう)
そういうところが評価されたんだろうか?
なにせ副社長はあの容姿だ。
彼を目の前にした時のみんなの態度は、骨を抜かれ過ぎていて共に仕事をする様な態度ではない。
受付課の後輩達も何度注意しても直すことは出来なかった。
もしかしたらその辺りで弊害が出ていて、そうならない人材を探していたのかもしれない。
ならば、贔屓にされても公平性を保ち副社長の役に立たなくては。
返事はまだだったが、やりがいのある仕事と迷っていたのも事実。
やったろうかじゃないかと変愛対象と見る事はないけれど、それでもそうならないようにするべきねとつくしは思った。
案の定、つくしの移動先は副社長のチームだった。
副社長のチームは男性だけの精鋭だったが、その中につくしが入った。
普通、移動した初日などは飲み会などがあり親睦を深めたりするものだが、ボスの副社長が分単位の激務をこなしているとあって部署での挨拶のみであった。
これにはお酒の弱いつくしもむしろ大歓迎で、早く仕事を覚えたいと自己紹介もそこそこに意識は業務の事へと向かう。
そんなつくしに先輩達の感心もひとしおだが、彼女に恋愛感情を持つ事が御法度なのは暗黙の了解だった。
その頃、道明寺ホールディングスでは一大プロジェクトが本格始動していて当然責任者の司は毎晩遅くまで会社に缶詰されていた。
秘書課に移動したばかりのつくしも微力だけれどと奮闘する。
(微力と思っているのは本人だけで先輩達は色んな意味で助けられていた)
全く進展しない二人。
だが、この忙しさではそれもしょうがないと思われた。
つくしの移動からひと月が経った頃、ようやくプロジェクトの目処が立ち落ち着きを取り戻してきた。
そんな中つくしのスマホに非通知の着信が入る。
思い出される嫌な顔。
つくしは電話に出るのを躊躇したが、考えた挙句取る事にするもやはり相手は中島海であった。
げんなりしながら対応すると、どうもバレンタインのお礼がしたいと言う。
駅近くのレストランでこの後時間を作ってくれと言うのだ。
礼ならいらないと言っても返事を待たずに電話を切る始末。
イライラしたつくしはスマホを睨んでしまっていた。
そんなつくしの様子に別のチームの秘書課メンバーが話しかけてきた。
(つくしは女子更衣室で電話に出たのだ)
愚痴を聞いてもらおうとつくしは海の事を話してしまう。それは無視しても大丈夫だと背中を押してもらいたかったつくしの意図もあったのだが、
彼女は思案顔をした後に言ったのだ。
「面白そうね。一緒に行きましょうよ。私だけじゃなくて他にも何人か誘って。」
「え、行くの?私は行きたくないんだけど、、」
「行った方が良いと思うな。行ってみれば分かるわよ。そうすれば牧野っち、その人もう電話かけてこないと思うわ。」
つくしには何の事やらと分かってなかったが、彼女が他の秘書課のメンバーに声をかけつくしも入れた5人でそのレストランへと向かう。
そしてレストランに着いてつくしは理解したのであった。
そこには合コンがセッティングされていた。
女性側は海が幹事なのだろうか、20代の若目のメンバーだった。
ひとり足りない女子を埋めようと海はつくしを呼んだのだった。
しかし突然現れた綺麗目美女軍団に女性側も男性側も圧倒される。
そう、つくしから話を聞いた彼女はこれに勘付いてたのだ。
道明寺ホールディングス日本支社の社員にとって今や牧野つくしは救世主だ。
これ以上、カモにされることなど赦してはおけないと秘書課メンバーに声をかけ、返り討ちにすることを計画立てたのだ。
道明寺側は皆30代と年齢は高めだが、知性と美貌を武器に海が連れてきた女子を圧倒する。
もちろんその中にはいつもと違って化粧をしたつくしも。
数で圧倒され海はなす術がない。
自分達の仲間にも、道明寺側からも睨まれ立場を無くしたようだった。
そんな海を見てつくしは帰ろうと同僚に持ちかける。
滅多に見れない美女軍団を引き留めようと男性側は道明寺軍団を褒めちぎるが、彼女達は相手にせず立ち去った。
残された者達で合コンが続けられたかは最早言わずともだろう。
そのレストランを出たつくし達は別の店で食事を取る事にした。
急ごしらえだが秘書課の女子だけでつくしの歓迎会をやろうとなったのだ。
お酒も入りご機嫌なつくし。
皆同年代といつもより饒舌になっていた。
「え~、そんな風に思っていたの?」
「だってそうでしょ。だから副社長チームに女性がいなかったんじゃないの?」
「まぁ、間違ってはいないけどぉ、、」
「でも弊害なんてないでしょ。別に。」
「そうだね。女性がいなきゃって事はないかな。チーム以外の秘書課がすればいい事だし。」
「それじゃ、何だと思う?牧野っちが副社長チームに抜擢されたのは。」
「何だろ?話しかけやすいから?」
「副社長は話しかけやすいとか関係無さそうだけどな。」
「確かに。ん、じゃーなんであたしなんだろ。」
つくしはそう言って司との対話を思い出していた。
秘書課に移動する前、
話をするようになった。
その前に給湯室で口説かれた。
でもあれは仕事の事だ。それって今やってる事だよね。
そして、
ようやく思い出したエレベーター待ちでのキス。
確かあの時SPに囲まれていた。
という事は副社長チームの先輩達もいたって事だ。
ボボボボボッ//////
突然赤くなったつくしにみんなが突っ込んでくる。
「牧野っちどうしたの?」
「何、何があったの?」
「あ、い、いやー」
「いやーって何かい!白状せいや。」
「え、えっ、と、、、そう言えばキスされた。」
「「「「ええーーーー」」」
尋問にならぬほど簡単に白状してしまうつくし。それくらいつくしはプチパニックになっていた。
「マジ?え、いつ?」
「いつ、かな?えっと、、」
「いつなんじゃい!」
「えっ、と、、バレンタイン前かな。」
「バレンタイン!だから副社長、、」
「だから?何?」
「だから副社長、あの女の取材受けたのよ。牧野っちの顔を立てようとしたのね。」
「へっ?」
「でも、あの女の思惑に見当違いと分かって機嫌悪くしたんだ。副社長可愛いなぁ~」
「機嫌悪く、、?」
「重役会議でその報告があった時、機嫌悪かったみたいよ。うちの部長が言ってた。なんで機嫌が悪くなる取材受けたんだろって、、でもこういう事かぁー」
「こういう事?」
「「「牧野っちが、副社長に愛されてるって事よぉー」」」
「へ?ひぇーーー???」
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受付課主任牧野つくしは、副社長の道明寺司が女性社員を評価していないと思っている。
だが、道明寺ホールディングスは日本企業でありながらNYを拠点としているため企業体質は欧米スタイルをいち早く取り入れていてかなり女性の進出は進んでいた。
そのため管理職と呼ばれる部長級にも女性は数多くいて、道明寺ホールディングス日本支社は多くの女性社員に支えられて成り立っていた。
(もちろん女性以上に優秀な男性社員は沢山いる)
そんな部長級の女性社員が若き経営者をどのように見ていたかと言うと、それは単に美貌の御曹司というのではなく会社そのものとしてだった。
後継者である司が10年後に社長に就任していることはその手腕からも予想出来る。
その時の会長が今のままなのか、それとも社長がそのまま会長へと就くのかはわからない。
しかし、司が第一線で指揮を取っているのは間違いないだろう。
ではその時の彼の周りはどうなっているのか、それが彼女達の関心だった。
企業の規模に関わらず上司によって現場は左右される。どんなに優れた精鋭が揃っていてもそれを率いるリーダーが粗雑では現場は機能しない。
司のリーダーシップは文句がつけようがない。その手腕に疑いがないのだが、司の孤高の態度に明るい未来を描ききれずにいた。
今はまだ若く部下である自分達を一目置いている様だが、歳を重ねさらなる自信を身に付けた時もそうであるかと思えないのだ。
それだけ司の孤高は凄みがあり他人を寄せ付けない。
まるで誰も信じられないと言わんばかりなのだ。
それは彼の生い立ちにもよるところが大きいだろう。
道明寺一族の御曹司として生を受けてから、良くも悪くも常に注目を浴びてきた。
その反動から学生時分はかなり粗悪な態度も取っていたようだ。
決して擁護する訳ではないが、彼の立場を考えると正論を突きつけられないのもまた事実。それだけ彼の孤高は根が深いのだ。
重役を担う彼女達には母親である者もいる。
母としての目で彼を見た時、彼の冷めた目がなんとも胸を傷ませることか。
それ故誰か彼の心を溶かしてくれる存在が現れればと考える事もまた自然な事だった。
そんな中噂された副社長の受付課主任への態度。
女性キャリアの社員達は、道明寺ホールディングスの明るい未来を描くべくその真相を知りたがった。
pm2:56
この日2時ちょうどから始まった会議が終了した。
週に一度開かれる重役会議。
無駄な会話など無く淡々と進んだ会議。
報告事項が主な議題であったが、当然質問等もあった。
副社長の突発的な取材の報告があり、各方面への影響も十分配慮していると報告された。
会議の参加者達は突発的な取材に怪訝な態度を示す。それは司らしくない事だった。
そしてその報告の時の司の態度も機嫌が良いものではなかった。
(平静を装っていたが、微妙な空気の違いが確かにあった)
そして報告を終えた秘書を睨んだかと思えば、不満そうな表情を浮かべる司。
初めて見せる人間臭い司の表情に重役達は大きな関心を持つ。
何をそんなに苛立っているのか予想出来ないけれど、中には女の直感が働いた者もいた。
参加者の心に騒めきを起こして終了した会議。
そんな会議の後で彼らは目撃する。
会議室を出て、エレベーターホールに向かう司。
前方にあるモノを見つけてからそれをギッと睨んでいた。
みるみるうちに険しくなる表情。
口元もギリギリと歪んでいた。
こんなにも感情を露わにした司を見る事は今までなかった。
何を見ているのか?司の視線を辿れば一組の男女が立っていた。
仕事中の様だ。
女性は男性の話を聞きながら手元のファイルに何か書き込んでいた。
男性の方が司の視線に気付きギョッとしている。
女性は手元に集中しているせいか、まだ周りの視線にすら気付かない。
女性が顔を上げ、目の前の男性が固まっているのを見てようやく気付く。
振り返りこちらを見た。
その瞬間、司の表情がリセットされる。
そして女性が飛び切りの笑顔で会釈した。
司は目を細めて、軽く右手を上げた。
通り過ぎる瞬間、彼女に向けるのは最愛の表情。
だが、頭を下げた彼女は見ていない。
その顔を上げろとばかりに見つめるその目は、彼女が彼にとってどんな存在かを知らしめるには充分であった。
そして、彼女の側にいる男性が司の視界に入った時の表情の変化。
睨みつけるというには弱すぎるその表現。
その表情はそれだけで人を殺せるような破壊力だった。
男性の表情が青ざめているのが分かる。
おそらく彼は何故司に睨まれているのか分かっているのだろう。
それを否定したいのだが、あまりの恐ろしさに動けないといったところだろうか。
男性の様子に気付いた彼女が彼に話しかける。
その瞬間その二人に背中を向けているにも関わらず、司に漂うオーラは怒りの頂点。
嫉妬心からの牽制だろうか?それにしてはやり過ぎだ。
司の秘書も呆れた表情を浮かべていた。
エレベーターホールで怒りのオーラを出しまくる司。
いつもは司を見て光悦の表情を浮かべる社員達もその雰囲気に近付けない。
「医務室までご一緒しましょうか?」
その声に反応し振り返る司。
その顔には何本もの青筋が立っていた。
医務室にはむしろ司を連れて行った方が良いのではと思う者もいた。
(おそらく司の血圧は急上昇しているだろう。危険な値になってないだろうか?)
しかし彼女に話しかけられた男性が断り、逃げるようにその場を後にしたので、
不思議がった彼女は振り返る。
そして司の表情を目撃し、驚愕していた。
「ふ、副社長?」
「何だ?」
とたんに変化する声のトーン。
あまりの変わりように彼女は戸惑っていた。
彼女からすれば致し方ないのかもしれない。
その後は到着したエレベーターに司が乗り込み、ようやく周りの社員も緊張を解けた。
ひとりだけは緊張ではなく疑問を抱えてしまっていたので、首をひねっていたが。
ともかくこれで噂の真相は重役達にも知れ渡った。
受付課主任牧野つくしによって道明寺ホールディングスは明るい未来を築けそうだ。
彼女がこの会社を左右する存在になる。
それぞれの重役達はその認識のもと行動を開始した。
牧野つくしを取り巻く環境が変わった瞬間だった。
「あんなに青筋って立つものかな?それともあたしの見間違い?」
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だが、道明寺ホールディングスは日本企業でありながらNYを拠点としているため企業体質は欧米スタイルをいち早く取り入れていてかなり女性の進出は進んでいた。
そのため管理職と呼ばれる部長級にも女性は数多くいて、道明寺ホールディングス日本支社は多くの女性社員に支えられて成り立っていた。
(もちろん女性以上に優秀な男性社員は沢山いる)
そんな部長級の女性社員が若き経営者をどのように見ていたかと言うと、それは単に美貌の御曹司というのではなく会社そのものとしてだった。
後継者である司が10年後に社長に就任していることはその手腕からも予想出来る。
その時の会長が今のままなのか、それとも社長がそのまま会長へと就くのかはわからない。
しかし、司が第一線で指揮を取っているのは間違いないだろう。
ではその時の彼の周りはどうなっているのか、それが彼女達の関心だった。
企業の規模に関わらず上司によって現場は左右される。どんなに優れた精鋭が揃っていてもそれを率いるリーダーが粗雑では現場は機能しない。
司のリーダーシップは文句がつけようがない。その手腕に疑いがないのだが、司の孤高の態度に明るい未来を描ききれずにいた。
今はまだ若く部下である自分達を一目置いている様だが、歳を重ねさらなる自信を身に付けた時もそうであるかと思えないのだ。
それだけ司の孤高は凄みがあり他人を寄せ付けない。
まるで誰も信じられないと言わんばかりなのだ。
それは彼の生い立ちにもよるところが大きいだろう。
道明寺一族の御曹司として生を受けてから、良くも悪くも常に注目を浴びてきた。
その反動から学生時分はかなり粗悪な態度も取っていたようだ。
決して擁護する訳ではないが、彼の立場を考えると正論を突きつけられないのもまた事実。それだけ彼の孤高は根が深いのだ。
重役を担う彼女達には母親である者もいる。
母としての目で彼を見た時、彼の冷めた目がなんとも胸を傷ませることか。
それ故誰か彼の心を溶かしてくれる存在が現れればと考える事もまた自然な事だった。
そんな中噂された副社長の受付課主任への態度。
女性キャリアの社員達は、道明寺ホールディングスの明るい未来を描くべくその真相を知りたがった。
pm2:56
この日2時ちょうどから始まった会議が終了した。
週に一度開かれる重役会議。
無駄な会話など無く淡々と進んだ会議。
報告事項が主な議題であったが、当然質問等もあった。
副社長の突発的な取材の報告があり、各方面への影響も十分配慮していると報告された。
会議の参加者達は突発的な取材に怪訝な態度を示す。それは司らしくない事だった。
そしてその報告の時の司の態度も機嫌が良いものではなかった。
(平静を装っていたが、微妙な空気の違いが確かにあった)
そして報告を終えた秘書を睨んだかと思えば、不満そうな表情を浮かべる司。
初めて見せる人間臭い司の表情に重役達は大きな関心を持つ。
何をそんなに苛立っているのか予想出来ないけれど、中には女の直感が働いた者もいた。
参加者の心に騒めきを起こして終了した会議。
そんな会議の後で彼らは目撃する。
会議室を出て、エレベーターホールに向かう司。
前方にあるモノを見つけてからそれをギッと睨んでいた。
みるみるうちに険しくなる表情。
口元もギリギリと歪んでいた。
こんなにも感情を露わにした司を見る事は今までなかった。
何を見ているのか?司の視線を辿れば一組の男女が立っていた。
仕事中の様だ。
女性は男性の話を聞きながら手元のファイルに何か書き込んでいた。
男性の方が司の視線に気付きギョッとしている。
女性は手元に集中しているせいか、まだ周りの視線にすら気付かない。
女性が顔を上げ、目の前の男性が固まっているのを見てようやく気付く。
振り返りこちらを見た。
その瞬間、司の表情がリセットされる。
そして女性が飛び切りの笑顔で会釈した。
司は目を細めて、軽く右手を上げた。
通り過ぎる瞬間、彼女に向けるのは最愛の表情。
だが、頭を下げた彼女は見ていない。
その顔を上げろとばかりに見つめるその目は、彼女が彼にとってどんな存在かを知らしめるには充分であった。
そして、彼女の側にいる男性が司の視界に入った時の表情の変化。
睨みつけるというには弱すぎるその表現。
その表情はそれだけで人を殺せるような破壊力だった。
男性の表情が青ざめているのが分かる。
おそらく彼は何故司に睨まれているのか分かっているのだろう。
それを否定したいのだが、あまりの恐ろしさに動けないといったところだろうか。
男性の様子に気付いた彼女が彼に話しかける。
その瞬間その二人に背中を向けているにも関わらず、司に漂うオーラは怒りの頂点。
嫉妬心からの牽制だろうか?それにしてはやり過ぎだ。
司の秘書も呆れた表情を浮かべていた。
エレベーターホールで怒りのオーラを出しまくる司。
いつもは司を見て光悦の表情を浮かべる社員達もその雰囲気に近付けない。
「医務室までご一緒しましょうか?」
その声に反応し振り返る司。
その顔には何本もの青筋が立っていた。
医務室にはむしろ司を連れて行った方が良いのではと思う者もいた。
(おそらく司の血圧は急上昇しているだろう。危険な値になってないだろうか?)
しかし彼女に話しかけられた男性が断り、逃げるようにその場を後にしたので、
不思議がった彼女は振り返る。
そして司の表情を目撃し、驚愕していた。
「ふ、副社長?」
「何だ?」
とたんに変化する声のトーン。
あまりの変わりように彼女は戸惑っていた。
彼女からすれば致し方ないのかもしれない。
その後は到着したエレベーターに司が乗り込み、ようやく周りの社員も緊張を解けた。
ひとりだけは緊張ではなく疑問を抱えてしまっていたので、首をひねっていたが。
ともかくこれで噂の真相は重役達にも知れ渡った。
受付課主任牧野つくしによって道明寺ホールディングスは明るい未来を築けそうだ。
彼女がこの会社を左右する存在になる。
それぞれの重役達はその認識のもと行動を開始した。
牧野つくしを取り巻く環境が変わった瞬間だった。
「あんなに青筋って立つものかな?それともあたしの見間違い?」
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道明寺ホールディングス日本支社で見られる毎朝の風景。
それは社員が出社した少し後にエントランスを通り過ぎる一行。
黒服のSPに囲まれ秘書を伴い出社してくるこの御曹司は、若いながらも副社長の地位にありこの支社を率いていた。
一行に囲まれ埋もれても何らおかしくないその集団にあっても目を惹く美貌。自信を漲らせた表情は眩いオーラを醸し出している。
そんな一行はエントランスに足を踏み入れるや脇目もふらず、目的地目指しエレベーターへと向かう。そう、立ち止まるのはエレベーターに乗り込む時だけだった。
が、この日は違っていた。
受付前を通り過ぎようとし、足を止めたのだ。
窓口に座り出迎えていた受付嬢達は、普段と違う副社長の行動に驚いた。
「主任はまだか?」
「は、はい。牧野主任はまだ出社しておりません。」
「そうか。フッ、俺より後なんだな。」
「時差出勤をしているだけです。遅れている訳では、、」
「分かってる。残業をしないためだろ?心配するな。批判している訳ではない。」
そう言って柔らかい笑顔を残し、その場を後にした司。
エントランスは騒めきたっていた。
そしてそれから20分位経った後、受付課主任のつくしが出社してくる。
エントランスを通り抜け、改札を通り抜けようとした時後輩と目が合い何か言おうとしている空気を感じたが、接客中であったためそのまま通り過ぎた。
そしてロッカーで支度をし何時もの様にam9:30業務を開始するのだが、つくしは何時もと違う様子に首を傾げていた。
見られているのだ。
何だろうとつくしは思った。
自分を見る目に行く先々で遭遇する。
その視線に悪意を感じはしなかったが、急に注目された事でつくしは戸惑ってしまった。
「おはよう。」
「あ、おはようございます主任。」
「おはようございます。」
受付業務の合間に連絡事項を通達するつくし。一通りの申し送りが済み、後輩からの報告に入る。
「他に何かあるかしら?」
「あの!」
「何?」
「今朝副社長が、」
「素敵だった?そんなの知ってるわ。」
「いえ、え?素敵ですか?」
「ん?副社長でしょ。素敵な方よね。私何か変な事言った?」
「変な事って、主任いつもは業務と関係ないって一喝するじゃないですか。」
「そうね。でも、挨拶くらいに考えても良いかなと思って。私も女性だし、そう言う気持ちはあった方が良いかなって思ってみたのよ。そんなに変だった?」
「いえ、変と言うか、、」
「何?」
「副社長も今朝は何時もと違ってたんです。」
「そう、何時もはここを通り過ぎるのに今朝は足を止めたんですよ。」
「そして、私達に話しかけたんです。」
「「「主任はまだかって!」」」
後半達の勢いに押されつくしは後退りしてしまう。
しかしこれで今朝の周りの視線の正体が分かった。
司が自分を気にしたからなのかと。
「何かあったんですか、主任?」
「いや、何も。っていうか、有りはしたけど話せないわ。私もまだ悩み中だし。」
「悩み中?何をですか?」
「副社長に不満でもあるんですか?」
「あれはかなり本気ですよ。断るなんて主任絶対駄目です!」
芸能レポーター並みの後輩達の質問責めにつくしは持ってたファイルで思わず防戦してしまう。
何故彼女達がこんなに熱くなるのかつくしには理解し難かった。
「あなたたち何か激しく誤解してない?」
「誤解?」
「だって、主任告白されたんじゃ、、」
「告白?誰に?」
それに顔を見合す後輩達。つまり彼女達はそう思っていたと言う事なんだろうか?
「私が副社長に告白されたと思っているの?確かに、ん、まぁ、言いようによっちゃそう言えない事もないけど、、恋バナでは無いわよ。仕事の事よ。」
「仕事!?」
「嘘っ!!」
「何が嘘なのよ。当たり前でしょうが。あなた達変な妄想ばっかりしてるんじゃないわよ。大体あたしと副社長じゃ釣り合わないでしょうが。」
自嘲気味につくしがボヤく。しかし後輩達の考えは違った。
「釣り合う、釣り合わないは関係ないですよ主任。」
「そうですよ。恋愛は好き同士がするものであって、お互い惹かれ合ってたら結ばれるべきなんです。」
「そんな相手と出会える事なんてそうそうないんですよ。気付いてあげて下さい。」
つくしは自分を卑下していると思われた事に申し訳無さを感じた。彼女達にとって上司である自分がいくら恋愛観とは言え卑下する事に尊厳を損なわれたと感じたのかもしれないと。
「ごめんなさい。そうね、あなた達の言う通りね。恋愛は見た目でするものじゃないわね。不躾な事言って申し訳なかったわ。」
そのつくしの謝りに後輩達は目で会話をする。
「さ、それじゃあ今日も1日頑張りましょう。足りない美貌は笑顔でカバーしていかなきゃね。」
そう言って窓口を離れていく牧野主任。
主任の背中を見送った後輩達は呆れの言葉を止められずにいた。
「えー、なんで分らなかったかな?」
「鈍いから。」
「素敵って言った時点での期待を返せ。」
「うん。私もトキめいた。」
「なんで主任は美人じゃないって思うんだろ?」
「普通に美人よね。そりゃ副社長みたく造形美ではないけど、嫌味無いじゃない。性格美人も出ているし。」
「うん、お似合いだよね。っていうか、片思いの副社長も良いけど、デレデレを見たくない?」
「見たい!」
「普通デレ過ぎると引くけどさ、あの造形美は逆に神がかると思うんだ。」
「そうそう。で、主任はそれを跳ね返す訳ね。」
「罪な女。」
「罪か、レベル高いなー」
「不純物無さそうだもん主任、そりゃ勝てないよ。」
「副社長でも?」
「副社長でも、、でも勝って欲しい、、」
「頑張れーー副社長ぉーー」
その頃、副社長の執務室。
デスクの上には決算を待つ書類が積まれているにも関わらず、受付課主任牧野つくしへの契約書を作成すべくキーボードを叩いていた。
叩きながら時折漏れる笑みは何故か肩を揺らし、誰にも見られてはいないが上唇は下唇に隠れていた。
滑らかに動く指先は彼の頭の中をつらつらと文字化していき、PCに表示される文字列は速度を速めていった。
タンッ
エンターキーを押し、作成は完了する。
大きいながらも指先まで美しいその手はキーボードからマウスへと動いた。
満足気な表情を浮かべ、保存にかかる。
しかしその時座っていた椅子が微妙に動き、マウスを持つ手が滑ってしまう。
咄嗟にもう片方の手で支えようとしたが、その手を置いた先で触れたキーはEsc。
突然ファイルが無地になり、目を真開く司。
ありえないミスに愕然とする。
そして頭の中はパニックを起こしていた。
俺の完璧な誘導契約が何故とか、
まさか他にも誰か牧野つくしを狙っていて、その妨害を受けたのかとか、
惑星を飛び越える被害妄想に最早歯止めは効かなかった。
そしてそのまま固まってしまい、中々動け出せなかったのだった。
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保存してないのにEsc押したら消えるよね、確か。
間違ってたらすまぬ。
それは社員が出社した少し後にエントランスを通り過ぎる一行。
黒服のSPに囲まれ秘書を伴い出社してくるこの御曹司は、若いながらも副社長の地位にありこの支社を率いていた。
一行に囲まれ埋もれても何らおかしくないその集団にあっても目を惹く美貌。自信を漲らせた表情は眩いオーラを醸し出している。
そんな一行はエントランスに足を踏み入れるや脇目もふらず、目的地目指しエレベーターへと向かう。そう、立ち止まるのはエレベーターに乗り込む時だけだった。
が、この日は違っていた。
受付前を通り過ぎようとし、足を止めたのだ。
窓口に座り出迎えていた受付嬢達は、普段と違う副社長の行動に驚いた。
「主任はまだか?」
「は、はい。牧野主任はまだ出社しておりません。」
「そうか。フッ、俺より後なんだな。」
「時差出勤をしているだけです。遅れている訳では、、」
「分かってる。残業をしないためだろ?心配するな。批判している訳ではない。」
そう言って柔らかい笑顔を残し、その場を後にした司。
エントランスは騒めきたっていた。
そしてそれから20分位経った後、受付課主任のつくしが出社してくる。
エントランスを通り抜け、改札を通り抜けようとした時後輩と目が合い何か言おうとしている空気を感じたが、接客中であったためそのまま通り過ぎた。
そしてロッカーで支度をし何時もの様にam9:30業務を開始するのだが、つくしは何時もと違う様子に首を傾げていた。
見られているのだ。
何だろうとつくしは思った。
自分を見る目に行く先々で遭遇する。
その視線に悪意を感じはしなかったが、急に注目された事でつくしは戸惑ってしまった。
「おはよう。」
「あ、おはようございます主任。」
「おはようございます。」
受付業務の合間に連絡事項を通達するつくし。一通りの申し送りが済み、後輩からの報告に入る。
「他に何かあるかしら?」
「あの!」
「何?」
「今朝副社長が、」
「素敵だった?そんなの知ってるわ。」
「いえ、え?素敵ですか?」
「ん?副社長でしょ。素敵な方よね。私何か変な事言った?」
「変な事って、主任いつもは業務と関係ないって一喝するじゃないですか。」
「そうね。でも、挨拶くらいに考えても良いかなと思って。私も女性だし、そう言う気持ちはあった方が良いかなって思ってみたのよ。そんなに変だった?」
「いえ、変と言うか、、」
「何?」
「副社長も今朝は何時もと違ってたんです。」
「そう、何時もはここを通り過ぎるのに今朝は足を止めたんですよ。」
「そして、私達に話しかけたんです。」
「「「主任はまだかって!」」」
後半達の勢いに押されつくしは後退りしてしまう。
しかしこれで今朝の周りの視線の正体が分かった。
司が自分を気にしたからなのかと。
「何かあったんですか、主任?」
「いや、何も。っていうか、有りはしたけど話せないわ。私もまだ悩み中だし。」
「悩み中?何をですか?」
「副社長に不満でもあるんですか?」
「あれはかなり本気ですよ。断るなんて主任絶対駄目です!」
芸能レポーター並みの後輩達の質問責めにつくしは持ってたファイルで思わず防戦してしまう。
何故彼女達がこんなに熱くなるのかつくしには理解し難かった。
「あなたたち何か激しく誤解してない?」
「誤解?」
「だって、主任告白されたんじゃ、、」
「告白?誰に?」
それに顔を見合す後輩達。つまり彼女達はそう思っていたと言う事なんだろうか?
「私が副社長に告白されたと思っているの?確かに、ん、まぁ、言いようによっちゃそう言えない事もないけど、、恋バナでは無いわよ。仕事の事よ。」
「仕事!?」
「嘘っ!!」
「何が嘘なのよ。当たり前でしょうが。あなた達変な妄想ばっかりしてるんじゃないわよ。大体あたしと副社長じゃ釣り合わないでしょうが。」
自嘲気味につくしがボヤく。しかし後輩達の考えは違った。
「釣り合う、釣り合わないは関係ないですよ主任。」
「そうですよ。恋愛は好き同士がするものであって、お互い惹かれ合ってたら結ばれるべきなんです。」
「そんな相手と出会える事なんてそうそうないんですよ。気付いてあげて下さい。」
つくしは自分を卑下していると思われた事に申し訳無さを感じた。彼女達にとって上司である自分がいくら恋愛観とは言え卑下する事に尊厳を損なわれたと感じたのかもしれないと。
「ごめんなさい。そうね、あなた達の言う通りね。恋愛は見た目でするものじゃないわね。不躾な事言って申し訳なかったわ。」
そのつくしの謝りに後輩達は目で会話をする。
「さ、それじゃあ今日も1日頑張りましょう。足りない美貌は笑顔でカバーしていかなきゃね。」
そう言って窓口を離れていく牧野主任。
主任の背中を見送った後輩達は呆れの言葉を止められずにいた。
「えー、なんで分らなかったかな?」
「鈍いから。」
「素敵って言った時点での期待を返せ。」
「うん。私もトキめいた。」
「なんで主任は美人じゃないって思うんだろ?」
「普通に美人よね。そりゃ副社長みたく造形美ではないけど、嫌味無いじゃない。性格美人も出ているし。」
「うん、お似合いだよね。っていうか、片思いの副社長も良いけど、デレデレを見たくない?」
「見たい!」
「普通デレ過ぎると引くけどさ、あの造形美は逆に神がかると思うんだ。」
「そうそう。で、主任はそれを跳ね返す訳ね。」
「罪な女。」
「罪か、レベル高いなー」
「不純物無さそうだもん主任、そりゃ勝てないよ。」
「副社長でも?」
「副社長でも、、でも勝って欲しい、、」
「頑張れーー副社長ぉーー」
その頃、副社長の執務室。
デスクの上には決算を待つ書類が積まれているにも関わらず、受付課主任牧野つくしへの契約書を作成すべくキーボードを叩いていた。
叩きながら時折漏れる笑みは何故か肩を揺らし、誰にも見られてはいないが上唇は下唇に隠れていた。
滑らかに動く指先は彼の頭の中をつらつらと文字化していき、PCに表示される文字列は速度を速めていった。
タンッ
エンターキーを押し、作成は完了する。
大きいながらも指先まで美しいその手はキーボードからマウスへと動いた。
満足気な表情を浮かべ、保存にかかる。
しかしその時座っていた椅子が微妙に動き、マウスを持つ手が滑ってしまう。
咄嗟にもう片方の手で支えようとしたが、その手を置いた先で触れたキーはEsc。
突然ファイルが無地になり、目を真開く司。
ありえないミスに愕然とする。
そして頭の中はパニックを起こしていた。
俺の完璧な誘導契約が何故とか、
まさか他にも誰か牧野つくしを狙っていて、その妨害を受けたのかとか、
惑星を飛び越える被害妄想に最早歯止めは効かなかった。
そしてそのまま固まってしまい、中々動け出せなかったのだった。
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保存してないのにEsc押したら消えるよね、確か。
間違ってたらすまぬ。