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birthday song sideつくし part2
2018-02-03-Sat
父親がリストラされ、自分もバイトをして家計の手伝いをと英徳を中退する意志をタマに伝えていたため、タマはつくしを匿う理由に、それなら両親と離れるが邸で再び使用人として働き仕送りをすれば良いとつくしと両親を説得し、その日のうちに世田谷の邸に連れ帰っていた。


なので次の日からつくしは使用人として働くつもりだったのだが、まずは健康診断だと就労するための義務だといい、都内のクリニックに連れて行かれる。


早朝のクリニックはまだ診察者を入れてなくてフロアはガランとしていたため、つくしは落ち着かなかったが、それも妊娠の事実を告げられるまでだった。


クリニックに滞在したのはせいぜい30分。


一通りの検査を受け、つくしはタマとリムジンの中で医師から告知をされた。


医師がリムジンを出ていったのも気づかずつくしは気づいたら世田谷の邸に戻っていた。


そしてタマから降りるように促され、つくしは使用人の仕事を指示される。


それは単純な作業で体力を使う事はないが、その量はけっこう多く黙々とこなさなければ終わらなかった。


タマに発破をかけられ作業を開始する。


作業を続け、冷静になってくるつくし。


作業の手を止め、お腹に手を当てた。



まだ平たいそのお腹が内側から動く事はない。


いつから動くようになるのか分からなかったが、動く未来を待ち遠しく感じていた。





司がNYに行ってしまった邸は主一家が不在のため、使用人の数も少なくなっていた。


とはいえ広大な洋館は客室だけでもホテル並みの数となるため、少ないといっても二桁の人数は必要で、実際その時邸に従事していた使用人はつくしを含め二十数人はいた。


皆がつくしの存在を受け入れていた。


つくしが司を変えた人物という事を目の当たりにしていたからだ。


使用人として働く事を皆に告げたタマは、本人を目の前にしてるにも関わらず妊娠の事もさらっと口にする。


慌てふためくつくしだったが、皆からわっと祝福されぼろぼろと泣き崩れた。


妊娠は病気ではない。だが無理は厳禁だ。


つくしは使用人となったが、重労働をさせられる事はなかった。




そして皆に見守られながら、9月の晴れた日に女の子を出産する。




産科の病院に入院するのではなく、邸に産婆を呼んでの出産だった。


その産婆は現役を退いていたため、つくしが産気つく前から邸に滞在し、見守っていた。


全てはつくしと娘を守るためだった。


司が記憶の戻らない以上、二人を護られるのはタマひとり。邸の中ならば外部に漏れる事は防げると考えての事だった。


(引退した産婆さんはタマが探して連れて来た)



初めてのお産に、初めての子育て。


だがつくしに不安はなかった。


入れ替わり立ち替わり声をかけてくる皆に温かく見守られていたからだった。


晴れた日には少々寒くても広大な庭で日向ぼっこを、


雪が降れば、庭師が張り切って大きな雪だるまを作り、親子を喜ばせた。


伝え歩き出来るようになれば、長い廊下を必死になり歩き回る。(疲れただろうとつくしが抱き上げれば、もっと歩くと泣き出しそのまま眠りこけた)



※一方でつくしの両親は出産後に告げられ邸にて孫と初対面するも、つつじは司の子でもある事からさっさと生活を安定させろとタマに凄まれ、年に数回邸での面会に我慢させられた



普通の育児休暇は1年だが、何もしないのはつくしの性分ではなかったため、つつじがひとりで座れるようになった頃からつつじを背中に背負って仕事もし始めた。(本当は首がしっかりした頃から始めたかったが、それはタマに止められた)



子どもを背負いながら働く使用人。


主一家の留守だからこそ可能だったのであろう。



歩けるようになれば手押し車のおもちゃを押しながらつくしの後を追いかけた。

そのうち掃除機のおもちゃ(どっから見つけてきたんだ…)を与えられ、「つーちゃんお掃除じょうず~」と皆におだてられ、つつじはつくしの仕事を邪魔する事はなかった。



邸内でどこに行くにも二人は一緒。



そんなある日、つくしはピアノの調律師の案内を任された。


といっても道明寺家のピアノをずっと見てきた調律師だったため、使用人として立ち会ったに過ぎない。


数台ものグランドピアノがある事に乾いた笑いをこぼすつくしだったが、ピアノを初めて見るつつじは眼を輝かせていた。



そして大広間にやって来た。



パーティーも久しく開かれてはなかったが、そこに置いてあるピアノは輝きを放ち、調律師が音を確認したとたん、つくしの脳裏にパーティーでの様子が想い浮かんだ。



壇上から指名され、逃げる事も出来ず恥だけをかいた苦い記憶。


あの時ピアノを弾く事が出来たら、鼻をあかす事が出来たのに…


そんな想いに更けていると、つつじまでもがそんな目に合わされないだろうかと不安になった。


いくら司の娘とはいえ、司が記憶を取り戻さなければその存在は無きに等しい。無下にされる事だって充分に考えられた。



「つ、つつじ。ピアノ、弾いてみたいね。」

「うん。ひちたい。」

「少し触ってみますか?」

「ありがとうございます。」



つくしに抱えられ、つつじの小さな指が鍵盤を押すと、良く響く綺麗な音が鳴った。


つつじの顔がぱあっと花開く。



「あっ、つつじ、待って! そんなに乗り出したら危ない。」



つつじはつくしの腕から落ちそうになる。



「あぶにゃい。おっこちるとこよらった。」

「そうだよー くす。でもピアノ良い音だね。」

「うん。もっとひちたい。」

「でもつつじにはまだ大きいなぁ~ もっと大きくなってからだね。」

「大きくって? 何しゃいから?」

「うーん、そうねぇ…」

「幼児ピアノは3才くらいからありますよ。」

「つー、もうしゅぐさんしゃい!」

「ははは…」



習わないかと話したくせに、習わせるとなると月謝などを考えねばならないとつくしは気づく。



「3才は早いなぁ。5才なら良いわよ。」

「え~ さんしゃいじゃらめなのお?」



楓のいうように女の子はおしゃまなのか、口も饒舌だった。



「すぐにやーめたって言うかもしれないじゃない? 最近つつじ、買ったばかりのおもちゃもすぐにぽいするでしょ?」



買ったのはつくしではない。祖母の楓からだったのだが、沢山与えられるおもちゃはつつじの興味をひとつに長続きさせなかった。



「らめないもん。」

「でも5才にならないとさせません。」

「うー ママのいぢわる~」



ほっぺを膨らますが、聞き分けの良いつつじはそれ以上は我が儘を言わず、ピアノの調律に夢中になった。








_それから2年半




「え? 援助するって…」


司がつつじに援助をしたいとタマが言ってきた。



「何か感じたのかもしれないねぇ。」

「何かって? つつじと会わせたんじゃないんですか?」

「あたしは会わせちゃいないよ。隠れて覗いてたあの娘を坊っちゃんが見つけたのさ。」

「…見つけた。」



それからタマは最初しらばっくれたが、司の方がそうだとばかりに話してきたと言う。



「えっ? つつじ風邪引いたんですか?」

「あ、ああ。3日ほどですぐに治ったけどね。」

「聞いてませんよ?」

「そうだったかい? 言ったつもりだったけどねぇ…」



余計な心配をかけまいとするところは相変わらずだと、つくしは文句を取り下げた。どっちみち口でタマに勝てるとは思えない。


それでタマはつつじにパパが何かしてあげると言ってると伝えた。


つつじは司がパパだという事は知っていて、でもパパの方はつつじを知らないとも理解していた。


まだ5才であったため、その疑問には深く考えずにいられた。記憶喪失になっている事を理由に説明したからだった。


記憶がないからつつじの事を言ってもパパは分からない。分からないから頭が痛くなる。でも記憶が戻ればパパは頭も痛くなくなり、つつじと遊んでくれると説明したのだった。



「何かしてあげるって? パパ頭は痛くないの?」

「うーん、そうみたい。でもまだ痛くはなるかも…」

「ふーん。」

「何か、やってみたい事はないのかい?」

「え? 習い事させるんですか?」

「援助したいというからそうなんだろう。片親だと誤解しているみたいだし。」



それは自分(母親)の姿が見えなかったからだろうとつくしは思い、顔を曇らせた。



「つつじ、ピアノやりたい。」

「「えっ?!」」



むんっと拳を作りやる気を見せたつつじにつくしとタマは顔を見合わす。



「な、なんでピアノ?」

「ママ5才になったらやっていいって言ったでしょ?」

「い、言ったっけ?」

「むー ピアノのおじさんが来たときに言ったよー」



それで調律師との事を思い出す。2年前の事をつつじは覚えていたのか、それともずっと思っていたのか…



「決まりだね。」

「タマさん。」

「やりたいだけ、やらせりゃ良いさ。スポンサーからは多めにぶんどってやるよ。」

「ちょっ、タマさん。」

「それでも少ないくらいだ。むしろ後でもっと請求しなかったと文句言われるに決まってる。」

「……」



悲壮感なくやる気を見せているつつじと、

記憶を取り戻す未来を願うタマを見て、つくしの心は揺れていた。




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おもちゃの掃除機は使用人のひとりがネットで見つけ、それを他の使用人が悔しがるという妄想であります。私も私もと買ってこようとするのをつくしが制するのもね。
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birthday song sideつくし part1
2018-02-02-Fri
つくしサイドも書かないとね。ネタ書ききれてないんだ
~♪
さて何話に納まるかな?
(ФωФ)







バタン



リネン籠を引いて廊下に出た。


長く連なる廊下を見て、孤独感に苛まれる。



今頃、つつじは何をしているのだろうか?


向こうの邸でも走り回ったりしてないかと心配になる。


向こうはこちらと違ってあの娘を知る使用人は少ない。


こちらから向こうに異動になった数人くらいで、いくらタマが一緒とはいえつくしは安心しきれないでいた。



今回タマに連れられつつじが渡米したのは、道明寺財閥の会長である司の父親に会うためだ。姉の椿にも2才になる息子がいるとは言え、向こうは外孫。海外では内外という概念は薄いらしいが、そこは日本人。嫁いだ先の跡取りの孫を何度も呼びつける事も気になるらしく、内孫になるつつじと会ってみたいと前々から打診されていた。


ちなみに司の母親には一足先に会ってはいる。


タマが味方になってもらおうと動いていたからだ。


正直その口ぶりから歓迎されているようには思えなかったが、



「貴方も女の子から産んだのね。女の方が早く成長して強くなるわ。きっと貴方を助けてくれるでしょう。」

「はい。」

「右の生え際が少し薄いのも椿と一緒。間違いなく司の娘(子)ね。」

「……」

「早いうちにタマが気づいて良かったわ。ここなら周りの目を気にせずに子育てを出来るでしょう。貴方の満足する両立は難しいかもしれないけれど、子ども第一に考える事ね。」

「あ、あの… なぜそう仰るんですか?」

「なぜ?」

「…認めてる訳ではないですよね。」



まだ乳児の娘を見てなぜ楓が認知とまではいかなくても許容している口ぶりなのか知りたかった。


交際事態を認めてなかった。


妊娠とて望んでいる訳がない。


楓にとって我が子は厄介者でしかないはずとつくしは思っていた。



「私が認めなかろうが、この子は生を与えられた。幼い子は大人が手を差しのべなければ生きてはいけないわ。だからそうするだけ。」

「……」

「それに貴方には一年の猶予を与えたわ。その間司は死んだ事にしてやるってね。」

「……」

「そしたら記憶喪失になった。きっと私が言ってはいけない言葉を発したからね。」

「え?」



楓はつくしを見る事なく語り始めた。

それには今までの司に対する後悔が色濃く出ていた。



「司が荒れているのは報告書で知っていたわ。でも読んだだけでその闇を知ろうとはしなかった。あの子がNYに来てその闇に触れて初めて知ったのよ。」



それは本質から目を背けていたという事だろう。


嫌な事を見ないようにするのは、人間の本能であるとも言える。それは身を守る術でもあるからだ。



「あの子は闇を背負っている。それでは誰にでも警戒されるし、弱い者は取り込まれるでしょう。そしてさらに大きな闇が迫ってきたら、司自身も取り込まれてしまうに違いない。」



道明寺財閥の経営者としての意見にも思えたがその表情は違っていた。


楓がつくしに見せたのは間違いなく母親としての愛。我が子を心配する母親の顔だった。



「闇に打ち勝つのは大きな光よ。だから司から貴方を奪うのは間違いだと気づいたの。」



そして楓は司ならする事をやってるだけと付け加えた。



「記憶が戻らないかもしれませんよ。」

「戻らなければずっと闇のまま、聞いてなかったの?」



嫌な口調は以前の楓のままだった。


だが変えられないのだろう。胸の内をさらし、同じ過ちを犯さないようにしているとはいえ、人はそう変わる事は出来ない。


それに変わってしまったら、それこそ狐につままれたようで信じる事は出来ない。



楓との話はそれだけだった。



でも楓は帰国するたびにつつじを気にかけ、教育の援助などを言ってきた。


だが使用人として置いておけるだけでも有難いと、つくしはつつじを幼稚園などには入れなかった。


近隣の保育園に預けようかと思っていたが、それにはセキュリティを理由に楓が難色を示し、結局つつじは邸の中だけで過ごす事になる。(つつじが側にいても働けるように配慮されたのと、他の使用人が保育を買って出たためいつしかそうなっていた)



そしてつくしの方も英徳学園を中退したにも関わらず、高卒は取るように言われ、使用人を続けるためにも大検を取得する。


そしてあったら便利だからと自動車運転の免許まで取らせてもらえた。(託児所付きの運転学校に通い、時には使用人がつつじを見てくれる事もあった)


これは邸に籠っているつくしには久しぶりに出る外界で、かなりリフレッシュする事ができ嬉しかった。




妊娠発覚から目まぐるしく過ごし、娘のつつじは5才になっていた。


司が記憶を失ってから6年が経とうとしている。


だが司の記憶が戻ったという知らせは一向に届かなかった。



体調の思わしくない司の父親の打診を断り続けていたつくしだったが、タマの強い勧めもあって今回つつじのNY行きを許した。


タマの言い訳は、生きているうちに孫を見せてやってくれというものだったが、ひょっとしたら司と接触させるのかもという予感もあった。


司の記憶を取り戻して欲しい。


タマの言動からはその想いが溢れていた。




つくしは司が記憶を取り戻したらどうなるんだろうとその変化を手放しでは喜べなかった。



記憶を失い、罵られ、他の女を見せつけられた。(とはいえ、海はすぐに疚しさを見抜かれ放り投げられたが)


あれだけ追いかけておいてあの態度。

いくら記憶が無いとはいえ腹は立つ。

すぐに記憶を戻せばタコ殴りにして許してやろうかとも思ったが、その内また父親がリストラされ引越を余儀なくされた。



そんな頃だ、タマが会いに来たのは。



司のNY行きを伝えてくれた。


そして雑談の中で(主に司の文句だったが)関係があった事を知られてしまう。


それでなんだろう。タマは引越になりバイトをしなければというあたしを説得し、邸の使用人をしろと強引に勧めてきた。というかアパートに行き両親を言いくるめていた。


あの時はまだ妊娠しているか分からない時期で、あたし自身何の自覚もなかった。


なのにタマはそれを見越してあたしを匿った。


なぜ分かったのかと聞くと、



「さあてね。坊っちゃんはあたしを妖怪呼ばわりするからね。本当にそんな力が付いちまったかもしれないね。」



タマの願いがはじめて見えた。


あれだけ司の文句を言っておきながらも、やっぱりタマは司の事を思いやっていた。


そして気づく。


自分が司の文句を口にしてない事を。



司に対して恨みなどはなかった。


忘れられてしまった事は悲しいが、出会い恋した事は悲しい事じゃない。


つつじが生まれたのも司と恋したからで、つつじの存在はつくしに大きな力を与えてくれる。生きてく上で一番大きな力を。


司が側にいない今、つくしの笑顔は全てつつじから与えられていた。



だがこの長い廊下を歩く時、ふっと司の孤独が見えてきて、つつじの存在を知らない司の不幸に気づかされていた。



司とつつじが会って、つつじが傷つくんじゃないかと思う。



でも頭の片隅にあの子が司を変えてくれたらと願うあたしがいた。







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birthday song 後編 part2
2018-01-31-Wed
走り続けると決めた俺は、これまで以上に仕事に没頭した。


会社に泊まり込むなんて当たり前。


邸に帰る時間さえ惜しかった。


唯一邸に帰ったのは娘の動画が届く日のみ。だから邸には週に一度しか戻らなかった。



娘の腕前は日に日に上達していき、三週目には一曲通して弾けるようになっていた。


そして俺はこの動画に衝撃を受ける。


それは曲の終盤、娘にかけられた小さな声。


その声で娘は逆にとちってしまい、弾き終えた後誰かを睨んでいるようだった。


動画はそこで終わってしまった。


俺はその声を何度も再生して聞き続けた。



「…余計な事するのがお前らしい。」



記憶を取り戻してから初めて感じる牧野の気配に、俺の心は踊った。


娘の姿だけでも何よりの活力になるのに、牧野の声はそれ以上のものを俺にもたらせた。



そしてまた一週間が経ち動画が届く。



そこにはまた牧野の気配が映し出されていた。



だが、今度は小さな声なんかじゃねぇ。


つうか、歌ってる。


牧野は娘の演奏に合わせて歌っていやがった。



娘の顔がズームアップする。


笑っている。


娘は楽しそうに笑い演奏していた。


娘は手元と牧野を交互に見るため、何度もとちっていた。


だが気にしちゃあいねぇ。


楽しくて楽しくてしょうがないとばかりに笑顔で鍵盤を弾いていた。


そのうち手拍子も聞こえてきた。


ひょっとしたら、それで娘の演奏を誤魔化そうとしてんのか?


そう思えるほど、手拍子は段々と大きくなっていった。



_暖けぇ。


心が暖かくなる事を俺は感じていた。



ついこないだまで、感情をなくしていた俺にはもう戻れない。



俺は寝るのも忘れ動画を飽きる事なく見続けていた。





そしてまた一週間が過ぎた。



朝機嫌良く仮眠室から出てくると、秘書が言い辛そうに報告してきた。



「はあ? 今日は送ってこないだと?」

「はい。何でも明日に延期したいそうでして。」

「何で明日なんだよ… はっ!! ひょっとしてあいつ風邪でもひいたのか?」

「メールで報告があっただけなので、そこまでは存じ上げておりません。」



こいつに言っても時間の無駄だとスマホを取り出しタマに電話をかける。



「坊っちゃんどうしたんですか? こちらはもう寝るところなんですよ。」

「るせー! おい、今日送らねぇってどういう事だ? ひょっとして、つつじ寝込んでいるんじゃねーのか?」

「…寝込んでなんかいませんよ。」

「だったらなんで今日送ってこないんだ!」

「はぁ…」

「溜め息つくんじゃねー!」

「つきたくもなりますよ。一日くらい我慢出来ないんですか?」

「くっ… うるせーよ。」

「全く。少しは辛抱というのを覚えて下さい。あの娘は坊っちゃんに上手くなったところを見せようと毎日がんばっているんです。今日は動画を撮影する日だったんですが、とちってしまって、上手く演奏できなかったんです。あの娘の気持ちをちょっとは考えてやれませんかねぇ。坊っちゃん、会えないとはいえ父親なんですよ!」



タマの言い分に俺は何も反論できず、そのまま電話を切ってしまった。


そして、イライラを落ち着かせるために秘書を下げらせ、執務室の中でひとり、日本でレッスンに励む娘を想いやった。



「俺だって父親の自覚を持ちてぇよ。くそっ。タマの奴痛いところを突きやがって!」



深呼吸し、気を鎮めようと努める。


だが中々気は鎮まってくれず、俺は執務室内をうろうろと歩き出した。



「くそっ。こんなにイライラしたら、今日一日使いもんにならねぇ…」



今はまだ朝の8時過ぎ。俺の一日はこれから始まるところだった。


動画を受け取るのはいつも夜、そこで俺はなぜこんなに早く連絡してきたのかと違和感に気づいた。


確かにとちって上手く撮れなかったかもしれねー


だが、俺が動画を見るのはいつも決まって夜だ。


だったら、まだ撮り直す時間はある。


俺が動画を見るのが深夜なら、向こうは昼前になるはずだから。



その時、俺のスマホが着信を知らせた。


スマホの表示を目にした俺は居ても立ってもいられなかった。









キィィィィイイーーーーン




カツカツカツ



「確かに13時間は長ぇよな。」



タラップを降りながら俺は娘と同じ愚痴をこぼした。




そして数年ぶりに世田谷の邸に到着する。


エントランス前で俺を出迎えたのは、数人のSP達だけだった。



「タマには言ってないだろうな?」

「はい。司様の帰国はSPのみで口を閉じております。」

「よし。」




俺は勝手知ったる邸を進んだ。


途中で使用人に見つかったが、今さらタマに言ったところでどうしようもないだろう。


俺は目的の場所目指して駆け出すように歩み進んだ。



そして目的の場所に到着した。

ここはパーティーなどを行う大広間。

ここにはグランドピアノが置かれてあった。


そう、あの動画の撮影された場所だ。



音を立てぬようドアを少しだけ開けると中から音が漏れてくる。



期待していたメロディが耳に届いた。



俺は堪らずゆっくりとドアを開けた。



そして視界に捉えたのは、愛する二人。



俺に背を向け、二人で座っていた。


つつじが演奏し、牧野が手拍子で見守っている。



俺は二人に気づかれないように、そっとドアを挟むように佇んだ。



「あっ、また。」

「くす。そこは難しいね。」

「うん。でももう一回。」



頬を膨らませながら演奏に没頭するつつじ。

それを優しい顔で見守る牧野に俺は胸が熱くなった。



そんな俺の邪魔をするコツコツとした杖の音。



二人もタマに気づき、つつじは演奏の手を止めタマを向き、


そして牧野は俺の視線を感じ取った。



6年ぶりに重なる視線。



タマも俺の方を向いたため、つつじも俺の存在に気づく。



何も言わない牧野に俺は胸が苦しくなる。



だが、



「坊っちゃん、何勝手に帰国してるんですか。秘書が皆困ってますよ。」

「あ? 硬ぇ事言うなよ。 休みなく働いてるんだ。一日くれぇ構わないだろ。」

「…はぁ。気づいてしまいましたか。坊っちゃんの仕事を邪魔しないように気を使った事が仇になりましたね。」

「気を使う?」

「動画が届くからと仕事を早めて帰るんじゃないかと思ったんです。でも帰って届いてないと分かったら癇癪を起こすだろうなと。だから早めに連絡したんですが…」



流石タマ、俺の事を良く分かってるじゃねーか。



「ふん。だったらこうなるのも、想定内だったんだろ?」



黙るタマ。

そしてちらっと牧野の方を向いた。


牧野はタマの視線を受け、困ったように身を硬くする。



そんな牧野を見上げたつつじ。



「パパ! つつじのピアノ見て! 上手に弾けるようになったんだよ。」



俺はパパと呼ばれた事に動けずにいた。



「あ、ああ。」

「えへへ~ じゃ、見ててね。」



つつじは鍵盤に向かい、弾き始めた。


ゆっくりと鍵盤を叩き、メロディを紡いでいく。



ドードレード、ファー、ミー

ドードレー、ド、ラー、ファー

ドードラー、ファー、ミー、レー

シーシ、ラー、ファ、ソー、ファー




演奏を終えたつつじは満面の笑みで俺を見た。



「パパ、お誕生日おめでとお!」



俺は堪らずつつじを抱きしめた。



「サンキューつつじ。すげえ嬉しい。」



えへへと照れるつつじの頭をガシガシと撫でる。


つつじの頭は爆発するように乱れた。



その様子に呆れたタマだったが、部屋に食事を用意していると俺たちをそこから移動させた。


で、部屋に入るとそこにはケーキや飲み物が準備され、今度は俺が呆れる顔をする。



「どうせ、祝ってやらないと帰らないんだ。しばらく帰れないだろうから、優しくしてやろうじゃないか。」



_口の減らない妖怪め…



口に出さず悪態をつく俺に構わず、タマは堂々と俺に難癖をついてくる。


避妊すら出来ないくせに手を出す馬鹿だとか、


しつこく追い回したくせにあっさり忘れてしまうとか、


全て牧野に対して負い目のある事だけに、青筋すら立てられず俺は顔の筋肉が勝手に動かぬよう必死に耐えていた。



「ぷっ。あはははは!」



牧野が声を出して笑うと、俺に向かって顔面白すぎると言い、それからタマに代弁者してくれてありがとうと告げた。


そしてキョトンとしていたつつじも一緒になって笑い、場は一気に明るさを取り戻す。


そこで俺はやっとタマの意図を理解し、妖怪には敵わないと内心で白旗を上げたのだった。



小一時間ほど無理やりケーキを腹に押し込みながら、つつじのピアノの話を聞いていると、ドアがノックされ時間切れを告げられる。




_後ろ髪引かれる想いだった。



だが愚図る事はしたくなかった。

そんな姿はつつじには見せちゃいけねぇって思った。


これが親の感情かと思った。


_これほど足取りが重くなるのかとも。




エントランスで二人の方を向く。



つつじに声をかけ、また頭を撫でた。


そして、



「行ってくる。」



謝らなければならないと思っていたが、それしか言えなかった。



だが牧野は笑って答えた。



「ん。待っててあげる。しょーがないからね。」

「しょーがないからかよ。」

「だってそうでしょ。地獄の果てまでって言われたし。」

「言ったな。」

「逃げるのも体力要るのよね。」

「…ありそうに見えるぜ?」



すると牧野は目を丸くし、「べーっだ!」とぎゅっと目を閉じ大きく舌を出した。



すげえ可愛い。


キスしてえ。


抱きしめてえ。



だが、、




俺はリムジンに乗り込み、窓を開けた。



「つつじ、ママみてぇにべーってするんじゃねーぞ。」

「はっ?」

「???」


つつじは俺らを見て首を傾げている。


「パパはつつじにべーってされると悲しくなる。だからお前はやらないでくれ。」

「うん、分かった。じゃ、ママもやっちゃ駄目だよ。パパ可哀想だもの。」

「なっ… あんたねぇ。」


牧野は口元をひくひくさせた。



「ママ!」

「わ、分かったわよ。もうやらないから。」

「ん。パパ、ママやらないって。」

「おう。つつじサンキューな。良い子にしてるんだぞ。」

「うん。だいじょーぶだよ。」



そしてリムジンは走り出した。


窓から二人を見続けていると、牧野が俺に歯を向けてくる。


だがつつじにバレ、あたふたしていた。




そのうち二人の姿も見えなくなった。


また当分ひとりかと、孤独に打ちひしがれそうになる。


だが目を瞑ると、ピアノのメロディがリフレインする。


途切れ途切れの下手くそなメロディ。


だが世界で一番愛あるメロディだ。


そのメロディで俺はまた走り続けられる。



二人と手を繋ぐために。






【完】



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とりあえずside司完結です。
司birthdayなので、司目線で通しました。
lemmmon初の記憶喪失ものです。
前編を書いた時、こりゃありきたりになりそうだと思ったのですが、なんとか私っぽくはなりましたかね?
そしてタイトルからネタが分かっちゃった人も多かったかもしれません。
それでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
これからsideつくしも執筆してみようと思います。
でも昼0時はきっとない。
のんびりと期待せずにいてくんなまし。
では~
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birthday song 後編 part1
2018-01-31-Wed
決意はしたが深夜だった事、それに一度冷静になった方が良いと思い俺はタマへの電話を後にし、その晩は眠りについた。


そして翌日夜になって電話しようと考えてたところ、ババアに呼び出される。



「思い出したのですね。」



開口一番問いただされ、間を開けてしまった俺は反論しなかった。



「だから何だ。」

「どうするおつもりですか? 彼女と彼女の娘を。」

「…あんたはどうするつもりだ?」



ババアが知ってても不思議じゃねぇ。

タマならば上手くやるとは思っていたし、それが隠し通す事だとも思ってなかったからだ。



「それはあなた次第です。」

「俺?」

「ええ。あなたがどう動くかで彼女達への対応を決めたいと思ってます。」

「…対応って何だよ。」



ぎりぎりと歯を食いしばり、威嚇してしまう。通じる相手ではない事くらい分かっているのに…



「彼女達がこのまま世田谷の邸で暮らすのか、それとも彼女達を邸から追い出すのか、です。」

「なっ… そんな事させてたまるか!」

「…追い出して欲しくないならば、こちらの要求を飲む事です。」

「要求だと…」



ババアは俺に淡々と要求を言い渡した。


だがなんて事はねぇ、ババアの要求は俺に実績を積めと言う事だった。



「つまり、今のまま続けろと言う事か。」

「…いえ、それだけではなく結果も出さなければなりません。ですからそう簡単には応えられませんよ。」

「けっ。やってやろーじゃねーか。」

「まぁ、5年は待ってあげましょう。」

「5年だと?」

「最低限そのくらいはかかりますよ。それでも足りないくらいです。私を満足させる結果を出すためにはね。」

「……3年だ。3年で結果を出す。」

「…そうですか。」



ババアは眼鏡をかけ、手元の書類に視線を戻した。


俺は礼もせずに部屋を出ていく。




確かに5年でも短いだろう。

3年と言ったのは強がりだと捉えられても仕方ない。


だが、やってやる。


俺にはあいつを手に入れる目的以外ないのだから。







夜邸に帰り、タマへ電話を入れる。


タマは俺の声色から記憶が戻った事をすぐに察した。


そして俺は長々と愚痴られる。



「るっせーな! 俺だって忘れたくて忘れたんじゃねーよ!」

「そんな事は百も承知ですよ。で、坊っちゃん当然つくし達を取り戻すため、ちゃんと奥様の要求を飲むんですよね?」



すでにババアとタマは通じてやがった。


分かってた事だが、ムカついてしょうがねぇ。


だが、タマは俺の味方だった。



「つくし達はあたしがしっかり捕まえておきますから、しっかりやって下さいよ。」

「タマ…」



そして俺はなぜタマが牧野を匿っていられるのかを知った。


俺がNYに行った後、タマは牧野に連絡を入れ続け時々会っていた。そして牧野が妊娠に気づいた時、ちょうど側にいて、牧野はタマに誤魔化しきれなかった。


それからタマは牧野が安心して出産出来るように、邸で住み込みで働かせ、牧野の両親からも匿った。匿ったというより、説得して丸め込んだってのが本当のところらしい。牧野の両親はあんなんだからな…


そして牧野は英徳を辞め、邸で使用人をしながら俺の子を出産した。牧野はあっちの使用人に人気だったからな。使用人は皆協力的だったらしい。


そしてタマは頃合いを見てババアに報告をしたらしい。いつまでも黙ってらんねー事はタマだって理解しているからな。それでタマはババアを味方に付ける事にしたそうだ。



「味方って、あのババアが味方になるのかよ?」

「それは坊っちゃん次第ですよ。奥様も仰ってませんでしたか? 奥様と坊っちゃんの関係がこのままで良いとは奥様とて思っておられません。だからといって自然にお二人が近く事も難しいでしょう。だからあたしは奥様に言ってやったんですよ。緩衝材が必要だってね。」

「…それが牧野だっていうのかよ?」

「はい。つくし以外には成し得ません。」



俺はタマの考えに納得せざるを得なかった。


実際、タマがいなかったら牧野はひとりで子どもを産んでいただろう。いや、ひょっとしたら産まれてなかったかもしれない。



俺はタマの敷いたレールに乗る事にした。


それが俺と牧野を想ってくれているタマへの恩返しだと思ったからだ。






はやる気持ちを抑え俺は一歩一歩前に進む事に決めた。


そして翌週PCに動画が送られてきた。



それを視聴し、俺は驚いた。



先週までは鍵盤を叩いていた奴が、今週は弾いていたからだ。



もちろんまだまだ下手くそには違いない。だがかなりの上達ぶりだ。


おそらくかなり練習しているのだろう。


たかが、5才くらいのガキが俺のためだけに上達しようとしている。



そこで俺は気がついた。


ーこいつは俺が父親だって知っているのか?



柱の影からこっそり俺を覗いていた。

そして俺に見つかり驚いていた。

『俺に知られたら怒られるか?』と聞いたら、首を振って否定した。



間違いない。


こいつは、つつじは俺を父親だと知っている。


知っていて、俺を見ていたんだ。



PCの中で、俺のためにピアノを弾く娘に涙が出てきた。


愛する女に良く似た表情で真剣に弾いている。




「くそ… へっ。泣いてばかりだな…」


ズズッと鼻をすする。


「負けてらんねーな。…負けてらんねーよ。娘に、娘に、負けてらんねー。」



一歩一歩進むなんてまどろっこしい。


走って走って、走り続けねーと、俺は娘に負けてしまう。



俺はこれ以上のエールはないと思った。



牧野と娘が俺がこいつらを取り戻すために必死になっている事なんて、知らないかもしれない。



だが構わねぇ。



俺だけが、こいつらを笑顔にさせてやれる唯一の人間だからだ。



「待ってろ。…待ってろ! 待ってろよ!!!」





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終わらなかった。今日中には仕上げます。
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birthday song 中編
2018-01-31-Wed
タマが帰国した後、ガキがいなくなっても俺は階段で足を止めていた。


自分と似た境遇だから、あのガキが気になるのかと思った。


だが違う。それだけじゃねぇ。

あのガキの存在は俺の中の何かを刺激している。

それがいったい何なのか俺自身分からないでいたが、そのまま放置する事も出来ず、俺はタマに電話をかけていた。




「援助、ですか?」

「ああ、何か援助をしたい。あいつ片親だろ? 母親がうちの使用人ならそれなりに困らねーかもしれねーが、俺が援助しても別に悪くねーだろ。…まぁ、俺も稼いでも使いようがないし、とにかく受け取れよ。」



単なる気まぐれだと援助を押しきったら、後日ピアノを習いたいと連絡があった。


俺はそれを聞いて笑っちまった。下手くそなのになぜか笑顔で、自信満々に弾いている様子が勝手に頭に浮かんだからだ。



「坊っちゃん?」

「くくく、良いんじゃねーの? やらせろよ。んで、弾けるようになったらこっちに弾かせに来いよ。」

「え?  弾かせに来いってNYにですか?」

「ん? ああ、俺はそっちには行けねーから。弾けるとこ見てえし。」

「なら、あたしがビデオに撮って送りますよ。あの娘はまだ5つで、何度も長時間の飛行機には乗せられませんからね。先日も長すぎるって文句たらたらでしたから。」



その文句言ってる様子も浮かんで俺はまたくくくと笑った。



「そうか。それなら週一で送れよ。下手くそでも、ちゃんとやってるかどうか分かるしな。」

「…やってるかなんて、やるに決まってますよ。あの娘は母親に似て真面目なんですから。」

「へぇ、そりゃ楽しみ。」



俺はそいつの母親には興味はなかった。

そいつを育てるためとはいえ、娘をほったらかしてまで仕事をする事に、ババアを連想させて気分を害したからだ。


だから、電話の向こうでタマが気を落としていた事には気づかなかった。



そうしてガキはレッスンを始め、翌週にはその成果発表の動画が送られてきた。


深夜帰宅して、着替えもせずにPCを起動し、動画を視聴する。


俺は声を出して笑っていた。



そこには下手くそとしか言い様のない、ピアニストがいた。


ピアニストと表現するには大袈裟かもしれねえ。だか態度だけは堂々としていた。

表情も不安な顔なんてせず、気合いが入ってて全力で演奏している事は間違いなかった。



『あの娘は母親に似て真面目なんですから。』



タマの声が頭に甦り、まぁババアとは違うかもな、と思った瞬間ー



ズキッ



今までにはない強い頭痛に俺は顔が歪んだ。



そして、ふっと何かが見えた。



ーピアノに、女?!



頭痛が治まった事で、PCを見ると動画は止まっていて再生のボタンが表情されていた。


その再生ボタンをクリックする。



音を聴かず俺はガキの顔をじっと見つめた。


演奏が終わり、ガキが顔を上げた。



その瞳、


その眼差し、




俺ははっきりと思い出した。




あれは俺の誕生日だ。


誕生パーティーでババアだかにピアノを弾けとけしかけられたあいつがやけくそになって弾いたとこだ。


その時に大河原と婚約だとかふざけた事を抜かしやがったんだ。あのババア!



だが、それは断ったはずだ。大河原の方から。



そして俺らは…





その後の事を思い出し、俺は愕然とした。


俺とした事が…


なんで、なんでだ!



なんで俺はあいつの事だけ忘れちまったんだ!!




俺は肩を震わせ泣いていた。



あいつを罵った。

邸から追い出した。

あいつが、俺に思い出してくれと訴えたのに聞かなかった!


あいつらの声も俺は無視した。


思い出せ。お前にとってとても大事な事だと、あの類さえもが言っていたのに。


俺はあいつを類の女だと決めつけ、はね除けた。



バンッ



やるせない怒りで俺はデスクを叩きつけた。


するとマウスに触ったのか、また動画が再生される。



~♪、♪、♪、~♪



弾いてるとはいえない調律が耳に届く。


音楽など、興味さえなかった俺の頭にこのメロディが浸透する。



そして俺は思った。



ーこいつは誰だ?



あいつに良く似た顔のガキ。


5つ。つまり生まれたのは5年前。しこんだのは…




あの時か。




俺はあいつと結ばれた夜を思い出した。



大河原に拉致られ、無人の船の中、停電しシャワーから聞こえるあいつの叫び声に…



抱きしめた。


後ろから、あいつの裸を見ないように抱きしめた。



そして、俺らは結ばれたんだ。



…泣いてた。


だが、笑ってくれた。


鼻をすすりながら。


鼻水と涙ですげー顔だったはずなのに、可愛いかった。



世界で一番愛しかった。


俺は幸せの絶頂だった。





なのに、なのになぜ俺はここにいる?


俺はひとりでここにいるんだ?


あいつを傷つけたまま日本に残して!




自分の事に打ちひしがれて、俺は頭を強く掻きむしった。


だが、掻いたところで痛みは感じねぇ。

俺はあいつに与えた以上の痛みを自分に与えたかった。



拳を自分の頬に打ちつけようと立ち上がる。



するとカーテンの隙間、暗闇が鏡となって俺の顔を映し出した。



情けねえ。


なんて情けねえ顔をしてるんだ俺は。



「こんな事してても意味がねぇ。俺が痛みを感じたところであいつの痛みが取れる訳でもねぇ。単なる自己満足だ!」



俺は自分のすべき事を考えた。


あいつの事をはっきり思い出した以上、このままでは終わらせねぇ。


あいつは俺のもんだ。


あいつが俺のガキを、いや俺の子どもを産んだのならあいつの中に俺はまだいるはずだ。


いや、絶対にいる!



『地獄の果てまで追いかけてやる。』



どんなに嫌われてようと、諦めきれず追いかけた。


あの時に比べたら、さらにマイナスの立場かもしれねぇ。



だが!



「お前がいなきゃ、俺は生きている意味がねぇ。お前に棄てられ屍になどなってたまるか。俺は、俺は…」



拳に力を込める。

俺の中で活気の炎がまた点火した。



「俺はお前をまた取り戻す。お前の子どもも一緒に。」






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原作ではなくドラマの方で書いてます。あのパーティーって坊っちゃんの誕生日だったよね?
違ってたらゴメン。
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